転校生の多いクラスだなあ。
まあ、私が言えた義理じゃないけど。

季節外れの転校生は、私でもちょっと戸惑うカラーリングの女の子だった。
髪の毛がピンクとか、あっちハンター世界ならともかく、こっちじゃ珍しい━━というか違和感ですよね。なのに誰も突っ込まない……どういうことなの……。

おっきなおめめにぷるんとした唇。可愛いんだよ。可愛いの。



「姫崎さん! 今日俺と帰らない?」

「姫崎〜、放課後付き合えよ!」

「姫ちゃん、俺らとカラオケ行かね?」



これ、いわゆる、逆ハー主とかいう人なのでは……?

姫崎姫乃さん。プリンセス重ねがけのお名前は、転校初日からやたらと男子生徒の口で紡がれている。
姫崎さんも姫崎さんで、それを当然のように受け止めていらっしゃる。ふむ。



「姫崎さん、お昼、弁当? 一緒に食べよ!」

「え、嫌よ。っていうか、馴れ馴れしく声掛けないでくれない?」



仲良くしようと声を掛けた園子ちゃんを厳しくあしらう。



「あっ姫崎さん、今日の掃除なんだけど」

「なんで私が掃除しなきゃいけないのよ?」

「な、なんでって……」

「貴女、新一くんの幼なじみだからって調子乗らないで」



蘭ちゃんへの当たりも厳しい。

こんな風に園子ちゃんや蘭ちゃん、というか女子全般に厳しい彼女だが、クラスの男どもはそれが見えていないらしい。
逆ハー補正かな?

……別に、逆ハーしたけりゃ勝手にやってればいいけど?
だからって?
周囲に迷惑掛けるのは良くないよねー!

放課後。
「なんなのよあの子」と憤慨する園子ちゃんを蘭ちゃんと共に宥めながら、校門へ。
すると聞こえたきたのは、園子ちゃんの言う「あの子」の声。



「だからぁ、私とデートしましょうよ 〜」

「いえ、ですから……」



んんん?
この声は、ひょっとして、いやひょっとしなくても、



「沖矢さん!」



思わず叫んで、前方を見据える。
そこにいたのは沖矢さんと、彼に抱きつかんばかりの姫崎さんだった。

邪魔だ、と言わんばかりの視線でこちらを見た彼女は、次の瞬間には笑顔で沖矢さんを振り返る。切り替えはやーい!



「あぁ、セレナさん」

「セレナ?」



そこで初めて、姫崎さんは私を見た。
そりゃね。逆ハー主さまにとって、私はイレギュラーな存在ですから、姿は見えてても気にはしてなかったでしょうねぇ。私のようなモブはねぇ!

現に、彼女は不可解なものを見るように私を見る。
それを無視して、意識して微笑んだ。目を細める。意図は「合わせて」だ。



「お待たせしてすみません。お迎えありがとうございます」



にっこり。
ダメ押しで笑いかけると、承知した、とでもいうように小さく頷く沖矢さん。

別段、待ち合わせなんてしてませんけどね。散歩という名の見回りでもしていたんでしょうよ。



「いえいえ、全然待っていませんよ」

「本当ですか? よかった」

「えっ、なになに、セレナったら沖矢さんとデートなの?」



計画通り。
と、思わずキラ顔をしそうになるのを押しとどめ、少し困ったように笑って見せる。



「デート、っていうか。ちょっと買い物に付き合ってもらおうかと思って」

「なんであんたなんかの買い物に昴さんが付き合わなきゃいけないのよ?」



あんたなんか、ねぇ?

口を挟んできた姫崎さんは、後ろの沖矢さんの顔に気付いてないようだ。
眉を寄せて、不愉快そうな彼の顔に。
それから、自分が口走った失敗にも。

さて何て返そうかな、と思っていたところで、口を開いたのは沖矢さんだった。



「失礼ですが、貴女とは初対面では?」

「え? えぇ、そうですよぉ〜。かっこいい人がいたから、声掛けちゃいましたぁ! これって運命ですよぉ!」

「では、なぜ名前をご存じなんですか?」

「なぜって、さっきそこの子も呼んでたじゃないですかぁ〜」



そう言って、デコデコした爪で園子ちゃんを示す。
そうねー、“沖矢さん”って、確かに呼んでたね。でも、



「昴さん、までは、言ってませんでしたよね……?」



小さく、それでもはっきりと口にしたのは蘭ちゃんだ。その目はまっすぐ、沖矢さんを見ていた。
続けて、「あ、でも自己紹介したのならごめんなさい!」と頭を下げる。



「いいえ、少なくともこの場では互いに名前を口にしていませんし、彼女とは間違いなく初対面です」

「えー、じゃあ姫崎さんアンタ、どこで沖矢さんの名前知ったのよ……?」



不審の色濃い園子ちゃんの視線に、やっと自らの失敗を悟った姫崎さんがたじろいだ。
蘭ちゃん、私、沖矢さんの視線も集まった中、俯いた彼女から聞こえたのは「なんでよ」という震えた声。



「そんなことどうでもいいでしょ!? なんで沖矢さんは私に靡かない訳?!」

「はぁ……?」

「なんで!? 他の男たちはみんなっ」



そこまで言って、唇を噛んで俯いた彼女。
その体はふるふると震えている。
そうして、キッと顔をあげて、捨て台詞のように叫んだ。



「覚えてなさいよっ!」



えっなにを……。
問いかける間もなく、姫崎さんは駆けだしていってしまった。
残されたのは、突然のことにぽかんとする私たちだけ。



「……変わった子ですね?」

「そーですね……」



後日。
姫崎さんは転校していったらしい。
らしいというのは、結局あれから私たちの前には姿を見せなかったからだ。学校にも来なかった。

どうやら、小さな名探偵や白い怪盗、西の高校生探偵、トリプルフェイス、挙げ句の果てに例の組織へも接触を試みたらしいが、どれも彼女の思う結果にはならなかったようで。
なんで知ってるかって、事情を耳に入れたヒソカがなんだかワクワクしながら調べに行ったからだよ。

ま、早々に諦めてくれて良かった良かった。
もう帰った・・・か、もしくは、またどこかで逆ハーやってるのかな?



「あの子、面白かったよね。変わった術か何かが掛かってたみたいだけど、何だったのかなぁ」

「あー……それ多分、逆ハー補正ってやつ」



クラスの男子たちを見ていたら分かる。
恐らく、彼女へと好意を集めるような何かがあったのだろう。
普通の……原作の世界なら、たぶん、彼女の思う通りの展開になったかもしれない。

でもねー。
私とヒソカがいる時点でこの世界、だいぶ変わってるしね!



「そう簡単に思い通りにいくなら、人生苦労ないわよねぇ」

「ふぅん?」



それ以上は興味のなさそうな我が家の主夫は、サクリと揚げ物に包丁を入れた。
今夜はトンカツだぜ!



戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -