(快斗視点)

「ただいまー」



今日もセレナの家に帰る。家はあるけど、今やこっちの方が家って感じ。
セレナには「あんたらの家じゃない」とか言われるけど、それでも時々、素で「おかえりー」って言われるし。いいよね、もう、家で。



「おかえり」



知らない人におかえりって言われるのは初めてだけど!

リビングにいたのは、一人の男の人だった。
長い黒髪の男がテーブルについている。
困惑する俺に構わず、その人はじっとこちらを観察していた。



「……あぁ、セレナの次男」

「へ?」

「違う!」



突っ込みと共に、奥からセレナがやってきた。良かった、どうしたらいいのかと思った。

キッチンで飲み物を淹れていたらしいセレナは、男の前にティーカップを置くと、くるりとこちらに向き直る。
そして言った。「おかえり」って。



「紹介するね。向こうの知り合いで、名前はイルミ」

「向こうの……えっと、イルミ、さん」

「うん」

「俺、黒羽快斗です」

「知ってる」



知ってる?
首を傾げる俺に、「あー、ヒソカね」と頷くのはセレナだ。

なんでも、イルミさんとヒソカは友達(?)で、ヒソカが俺のことをよくイルミさんに話すらしい。何それ、初耳。

ちなみに、(?)なのは、「友達……?」とイルミさんが瞬いたからだ。



「イルミって、よく弟たちのことヒソカに話すの。羨ましかったんだと思うよ」

「ヒソカが? 羨ましい……?」

「羨ましい、は言い過ぎかもしれないけど……自分も弟話をやってみたかったんじゃない?」

「ふぅん……」



……あ、弟って俺?
イルミさんとセレナ、二人の視線を浴びて、ようやく思い至る。

そりゃ、ヒソカは年上だし、兄みたいなものでもあるけど……そっか、俺、ヒソカの弟か。
さっきイルミさんが言った、次男ってそういうことか。ヒソカが長男ってことね。

なんだかむずむずして、顔が緩んでしまう。



「……うちの子が可愛い……」



隣でなぜか頭を抱えたセレナが、思わずといった感じで呟いた。
ナチュラルに“うちの子”扱いされてる辺り、ほんとに“セレナの次男”なんだよなぁ。



「イルミさん、セレナに会いに来たんですか?」

「うん、ちょっと……」



何か言い掛けたイルミさんが、ちらりとセレナと視線を交わす。



「……顔を見に、ね」

「へぇ……?」

「そうそう、別に敬語いらないよ」



堅苦しいから、と言ってヒラリと片手を振られた。
向こうの━━セレナとヒソカの世界の人って、基本フレンドリーだよね。
お言葉に甘えて敬語は外させてもらった。



「イルミって弟がいるの?」

「ウン」

「イルミは五人兄弟の長男だよ」

「五人!? 多いね」

「そう?」



普通じゃない?と首を傾げるイルミ。
長い黒髪がサラリと肩を流れた。綺麗な髪だなぁ。めっちゃ手入れされてる……。



「イルミ、もう帰る? まだいる?」

「特に急いではいないけど」

「じゃあさ、何でもいいから話聞かせて!」



向こうの世界の話はとても興味がある。セレナやヒソカもたまに話してくれるけど、危ないからってまだ連れて行ってもらったことはない。
いろんな話を聞いてみたいんだ。



「話……?」

「そう! なんでもいいよ。あっ、弟くんの話とか!」

「キルの?」

「きる……っていうの?」



そこから、いろいろ話をしてくれた。
イルミは無表情だけど、口下手じゃない。さらっとジョークを交えながら、あっちの世界で流行っているものとか、弟くんが家出した話とかをしてくれた。

たまにセレナが「あー!」とか「そういえばさぁ!」とか言って話を遮ってきたけど。



「イルミって何の仕事してるの?」

「俺? 俺はあん」

「安全が第一だよね! どんな仕事でも!」



ほら、また。

……分かってるよ。
俺に聞かせたくない話があるんだって、分かってる。
セレナにもヒソカにも、イルミにも、あっちにはあっちの生活があって、常識があって。
俺には分からない世界を生きてるんだって、思い知らされる。

……ま!
そんなこと、どーでもいいんだけど!



「タダイマ。おや?」

「やぁ」

「珍しいお客さんだね」



買い物から帰ってきたヒソカがイルミを見て笑う。それに答えたイルミは、おもむろに立ち上がった。



「イルミ、帰るの?」

「面倒くさいのが帰ってきたからね」

「ひどいなァ」



口ではそう言いながらも、ヒソカは楽しげだ。
じゃあね、とこっちを向かれたので、慌てて俺も立ち上がる。



「イルミ、ありがとう。話せて良かった!」

「……そう。まぁ、元気でね」

「ありがと! イルミも」



さり際に頭をぽん、と撫でられて、面食らう。
なんていうか、そういうのしそうに無い人かと思ってたんだけどな。
俺の後ろでヒソカも軽く目を開いてるし、やっぱり珍しい光景らしい。



「お前の弟、なかなか可愛いじゃん」

「……だろ?」



相変わらず無表情のままに告げたイルミと、心底嬉しそうに笑うヒソカ。
ぷるぷるしてるセレナ……は、悶えてるみたい。

……どーしよ、なんか、照れるんだけど!



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