「黒崎くんが芝居するなんて珍しいねー」
休憩中に話しかければ、彼は読んでいた台本から顔を上げた。
「芝居っつーほどのもんでもねぇだろ」
「そう? それでも、普段あんまりやらない系のお仕事でしょ?」
「あー、まぁな」
アイドル、黒崎蘭丸。
アイドルの定義って幅広いんだなぁと私に感じさせてくれた存在だ。
ロック大好きな兄ちゃんだが、結構真面目で義理堅いことも知ってる。
そんな彼と私が一緒になる仕事は、あまりない。私は女優の卵で、芝居やモデルなんかが畑だが、彼は歌や、最近はバラエティ。滅多に重ならないのです。
そんな訳で、再現ブイという短いドラマでご一緒するこの機会は、結構貴重だと思う。
「黒崎くんもあんな顔できるんだね」
「あんな?」
「ちゃんと好きな子に告白してるみたいだったよ」
理想の告白、というテーマで、アイドルたちが番組に寄せられた告白シチュエーションを再現する。人気バラエティ番組のコーナーだ。
彼に課せられたのは「壁ドンからの告白」というシチュエーションだった。
肝心の壁ドンシーンは無事取り終わり、後は前後のシーンのみである。
「誰か思い当たる人でもいるのかなー?」
「ばっ、いねぇよ!」
「ははーん、さては七海ちゃんだな!」
閃いた勢いで、彼と同じ事務所に所属する新進気鋭の作曲家の名を出す。
七海ちゃん可愛いよ七海ちゃん。可愛いだけじゃなくて、彼女の生み出す音楽は魅力的だ。確か、このコーナーのBGMも彼女の作曲だったはず。
そういえば反応がないな、と彼を見ると、すごく難しい顔をしていた。
「なんでそこにあの女が出てくるんだよ」
「別に深い意味はないけど。可愛い子と可愛い子がくっついてたら眼福だと思って」
「……おい、気のせいか、俺が可愛いに分類されてねぇか?」
何言ってるの、とばかりに目を見開いて、言外に「可愛いじゃんか」と伝えてやる。
すると、彼はぷるぷると握った拳を震わせていた。怒ったのかね。
「大体、俺はお前が━━」
「ん?」
「……なんでもねぇ。そろそろ休憩終わるぞ」
そのまま、ふいっとそっぽを向いて立ち上がると、彼はそのままスタジオへと戻っていった。
壁に掛けられた時計を見上げると、確かにそんな時間だ。
いやぁ、しかし、まったく。
……気付いてないと思ってるのかねぇ?
「やっぱりきみは可愛いなぁ!」
背後からタックルした私に、怒ったような、焦ったような、照れたような、可愛くしか聞こえない罵声が飛んできた。
俺はお前が、
黒崎先輩がお誕生日だと聞いて。おめでとうございます!
27/09/29