※蛭魔さんが最初から女の子
※男主(変態)は最京大学の現役QB
「パンケーキ〜!」
てれててっててーん。
効果音と共に沸いた男に、蛭魔は無言で眉をしかめた。
部活後の一コマである。
「今日のおやつはパンケーキですか」
突然の登場に驚いていないのは彼女だけではない。
男の手にある、言葉のとおりのパンケーキを見つめ、部員たちはいそいそとテーブル周りに集まった。
「先輩、いつもすみません」
「いーのいーの、好きでやってるんだから」
「でも、本当毎日だし、材料費とかも……私たち、何も返せてませんし」
「俺の愛(の込められた料理)が、よーちゃんの(口の)ナカに入ると思うだけで、もう、ごほーびですから!」
「死ね!」
凄まじい勢いのつけられた辞書は、あわや男の頭に命中、かと思われた。
バシィッ、となんとも痛そうな音を響かせて、男の手の中に収まったそれ。
投げた本人である蛭魔の目は、まん丸に見開かれていた。
「クォーターバックがこんな腕に負担のかかるもの投げちゃダメ!」
「クォーターバックがそんな腕に負担のかかるもの受け止めてんじゃねぇ!」
綺麗に重なったセリフに、男はきょとんと瞬いた後、嬉しそうに笑った。
そのままニコニコと差し出してきたパンケーキ。
精一杯睨みながら、奪うように受け取った皿には、ご丁寧にフォークまで添えられていた。
「大学生って暇なんスか?」
連日訪れるOBに、率直に訪ねる一年生。
「授業がなければねー。ま、俺は部活あるんだけど」
「エースが行かないのは良くないんじゃ……」
「確か今週末に試合ありませんでした?」
「そ。今、各自で調整の期間なんだ。だからよーちゃんに会いに来てるの!」
「さっさと調整しに戻れ!」
再び飛んだキャプテンの怒号にも、男はめげることなくにこにこと笑っている。
冷たいなぁ、なんてデレデレと口にされた言葉を無視して、彼女はパンケーキを一口。
輪切りにされたバナナに、ホイップクリーク、チョコレートソースがトッピングされたそれは、冷めてもなお柔らかさを失ってはいなかった。
「おいしい?」
こちらをじっと見つめてくる優しげな瞳。
耐えきれず、彼女は視線を外した。
「……甘ぇ」
お前等の雰囲気がな、とは、誰も突っ込めない部員たちであった。