きみの背には翼の痕



綺麗だと思った。
彼のその形の良い肩甲骨が、まるで美しい天使の羽根の付け根の様で。
ユーリはふとそんな事を思いながら目の前の健康的な肌色に触れた。
肌触りの良い白い肌に、金髪の髪。瞳は透き通る様なスカイブルー。
それだけでも天使の姿を連想させる彼に、今更翼が付いていたとしても、きっとそんなに驚きはしないのだろう。
寧ろその白く気高い翼に指を絡ませ、所有の印と言う様に痕を付け、もう何処にも行けない様にしてやりたいという、なんとも身勝手な感情ばかりが浮かび上がってくる。
人間はどこまでも貪欲だ。この腹の底に渦巻く熱い熱を覚えてから、その意味がよく分かる様になった。
しかしそんな私と反して、心の奥底まで綺麗に透き通っているだろう彼には、こんな風に何も知らない恋人の背中を興奮の対象にするなど、考えにも及ばない事だろう。きっと私がこの男にどこまで依存しているのかも、ただ白いだけの無防備な背筋が熱を煽ることも、きっと私が教えるまで知らない。
彼の背中を見ることは入浴を共にしない限り服の上からだけだった。だから今こうして彼が背を向けて眠っていることはとても珍しい事で、いつもなら眠った後も抱きしめてくるせいで背中は処か視界は全て肌色一色。
そのせいもある様で、いつもよりもベッドが広いような気がした。
どうしたものか、今日はいつもより自分の心が揺れている様で、今すぐにでも彼の首筋に唇を押し付けたい。
そんな心を落ち着かせる為にも、ユーリは徐に視線をベッドの端に向けてみた。そこにはベッドとセットになっているのだろう、薄い青色の棚がある。その上に乗っている目覚まし時計の針は既に夜の2時を指していた。
あと5時間もすれば、あの普通の日常の中へと戻っていく。ただ単に多数派が正義と決め付けられ、弱者が苦しめられる世界。
そんな世界の中で、彼は弱者を救う正義のヒーローだ。
それが普通で当たり前。なのに、こんなにも彼と共に過ごす時間が心地好くなってしまったのはいつからだろうか。
最初はただの情報収集から。境界を作っていた白線は溶けていく。怒りと憎しみがその温かい瞳に包まれ、利用してやろうという気持ちが建前に変わった。歪んだこの世界でも、まだましなのではないのかと、時折目的を忘れそうになる。

「…ん、…」

時計の目覚ましを調節しようと手を伸ばすと、彼が微かに動いた。しかし起きる様子はない。すやすやと穏やかな寝息を立てるこの男は、きっと純粋に私と向き合っている。

「…キース」

一体どれ程の人間が、あのキングオブヒーローがこんなにも美しく綺麗だということを知っているのだろうか。
いや、誰も知らなくていい。知らなければいい。
自分だけが、この男の瞳を独占する事が出来る。自分だけが、この空を羽ばたく翼を手に入れる事が出来る。
そう思うのは傲慢だと、君は言うだろうか。

「キース、」

落ちて来い、早く私の元へ。

そう言う様に、ユーリは甘くキースの背に唇を落とした。





残された赤い花びらに、君は気付いてくれるのだろうか。















企画「The moon」様に捧げます。
なんか、何も考えずに本能に任せて書いていたらこんなことに…。
どうしてこう私が書くとキャラ崩壊するのか、…すみませんでした

企画:theMOON様
お題:青様




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