ちらりずむてろりすと
「そのスカートどうしたんだ?」
「パパが買ってくれたの! 可愛いでしょー?」
彼女が珍しくスカートなんか履いてたから驚いたエース君はその一言で納得した。
パパ、つまり白ひげは彼女にとことん甘い。彼女が気に入ったもんなら大抵の物を手に入れてくるから洋服の1枚や2枚はしかたがない諦めている。ホントは他の奴からもらったもんなんて着てほしくねぇけどまぁ親父だし我慢。というのが彼の本音ではあるが。
彼がそんなことを考えてるなんて微塵も思っていない様子の彼女はさっきから延々とそのスカートの素晴らしさを語っている。楽しそうだからいいけどな。という考えを彼が後悔するのはほんの十数秒後だった。
「このふんわりした感じなのにちょっとセクシーなのが気に入っててねー、ほら、シースルーとレースが重ねてあって大人っぽいでしょ? このカットソーとも合うし。でね、このレースが結構質が良くて…」
エース君の耳に聞き捨てならない単語がいくつか届いた。確かに彼女のはいているスカートの下の方は薄っすらと透けていて膝上15センチくらいまでは肌の色がわかる。
「あ、マルコ、このスカートどう?」
くるりと一回転したせいで膝ちょい上だったスカートが広がって脚が見えた。頭の良いマルコ君は即座に素知らぬふりを決め込んだ。賢い選択である。
しかし今の時間帯はかなりの人数がここにいるわけで、
「舞」
ん?と笑顔で振り返った彼女を引っ張っていって自室のドアを乱暴に閉めたのは当然のことながらエース君であった。
「もぉ何? まだみんなに見せてなかったのに」
見せる気だったのか。
という突っ込みを今更入れる気は彼にはない。だって彼女は白ひげに何かもらうとそれを見せるためだけに船内を走り回っているのだから。
けれど今回のは許しがたい。お前は船員たちのおかずになってやるつもりかってーの!とは彼の心の声(一部抜粋)である。
「おかず…?」
「!?」
思っていることを口に出してしまう迂闊さが彼の良さであるがある意味自分の首を絞める行為でもある。
たまーにやっちまうんだよなぁ。とつぶやく彼に彼女はにっこり笑って訊ねた。
「なんでアタシがおかずになるの??」
しかもわかってない。なんでだ。ああこいつだからか納得。ぱっと見間違っていないこの回答の正しい答えをエース君が知る日は来るのか。否来ないだろう。
だって彼女には教える気が1ミクロンたりとも無いのだ。
「わかんなくていい」
「えー…」
エース君は不満そうに唇を突き出す彼女に溜息。とみせかけて深呼吸する。
可愛い。何でこんなに可愛い奴が今まで無事だったかを知りたい。と彼は一生明かされることの無い謎に取り組み始め一瞬で諦めた。
「とにかくそのスカートだけは見せびらかすのやめろ」
頼むから、と付け足したエース君がベッドにぺたんと座って髪を弄っている彼女に目をやるとスカートが捲れてた。
一瞬硬直。今の彼の顔は真っ赤だ。トマトより赤い。りんごなんて目じゃない。
「エースがどうしてもってゆーならやめる」
あっさりそう言ってベッドに寝っころがる彼女から目を離せなかったのは悲しい男の性である。そんなエース君を見てにんまり笑ってる彼女に、彼は一生気付かないのだろう。
「じゃあこのキャミソールみんなに見せてくる!」
「あ、おい!」
彼女は何かを思いついたようにパッと立ち上がって甲板へ向かった。
その日彼女一人のせいで白ひげの船が赤く染まったとか染まらなかったとか。
こうして彼女はちらりずむという名の武器を手に入れた。
エース君の受難はこれからも続くのである。
天然の皮を被った悪魔(彼女の正体は上記の通りに御座います)ごめんなさい。様に提出。