真っ赤な唇で口ずさむ


ああ、まただ。またあの女が歌ってる。

夜明け前、目を覚ますと歌が聞こえた。ソプラノ。こんな高いキーで歌を歌える人間なんてこの船ではあの女しかいない。最近拾った奇妙な女。
あの女は気付くとこの歌を歌っている。甲板の上でも、部屋でも、上陸した島を歩いているときも、敵と交戦している真っ最中でさえも、あの女は歌っている。おかげで一人で歌えるくらいには覚えてしまった。もちろんあんなに高い音は出ないが。


「おい嘘吐き女」
「あら酷い。私は嘘なんか吐いていないじゃない」


思わず舌打ちしたくなった。
そう確かにこの女は嘘なんか吐いてやしないのだ、ただ相手が誤解するような話し方をするだけで。
まずベポが落ちた。曰く、綺麗で優しい女の子。次にキャスケットとペンギン。曰く、色っぽくて扇情的な美女。それからも次々とこの女に落ちていき残ったのは俺一人。奴らはあの女についてまったく違う言葉を使う。純粋で幼くて守ってやらなきゃいけなくて計算高くて大人で艶やかで美しい女らしい。共通していたのは美しい容姿をしているという点においてのみだった。


「なんであなたは騙されてくれないの?」
「俺としてはなんであいつらが騙されてやってるのが不思議なくらいだ」
「あら、そんなの簡単よ。私が美人だから。美人に騙されるのは楽しいでしょう?」
「俺は解剖しているほうが楽しいが」
「色気がないわね。でもいいの。お互い遊びだもの」


うっそりと笑う女は確かに美しい。そうして十六という年に不似合いな何かを持っている。
そのアンバランスさに惹かれるのだろうか。
しばらく思案してみたが俺にはよくわからなかった。おそらくそういった方向に淡白だからだろう。
一応弁解しておくが俺は女に興味がないわけでも“そういうこと”ができない体というわけでもない。
なんとなくこの女に欲情しない。それだけのことだ。

ぷらんと時折揺れる脚。自らの爪先を眺める女は朝焼けのせいか年相応の顔をしているように見えた。


「あなたは」


女は言いかけて一度口を閉じた。
数秒後もう一度あなたは、と紡ぐ。少女はもう女の顔をしていた。

そうしてこの女はまるで例の歌でも歌うように自然に、甘い虚言を吐き出すのだ。






ごめんなさい。様に提出。




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