そのほか/大久保さん


出掛けてきますと小娘が私の部屋に声をかけてきたのが半刻ほど前。
つい先程、半次郎が私の部屋に来て紘さんが怪我したようであいもすと言った。
洋室に待たせてあると言われ、私が尋ねればソファーに座り足を氷水に浸した小娘がそこにいた。
怒られると思ったのか萎縮している。

「何をやっているんだお前は」

「ごめんなさい…」

「出掛けてるのは勝手だが私に世話をかけるな」

「すいません…」

はぁと態と溜息をついて氷水に浸した足を拭ってやる。半次郎が言うにはただの捻挫だ、と。薬を塗って安静にしていればいいと言っていた。

「だいたい何故捻挫したんだ」

「あ、その…」

「言えないのか?」

「これを買いにいってて…」

「これは…私の好きな店の干菓子?」

「今日私のいたところではバレンタインって言って、甘いものを好きな人にあげる日なんです。大久保さんにあげたいなって思って…」

私が顔を上げれば紘は俯いていた。髪から覗く耳は赤くて、私の口元には勝手に笑みが浮かぶ。

「ほう…私にあげたくて、か。小娘にしては気がきくな」

「急がないと売り切れちゃうからって走ったら転んじゃって…」

「ふん、そうか」

水を拭き取っていたやたらと白い足をあげると小娘が不思議に思ったのか顔を上げる。

「私の為だと思えばなかなかどうして…この怪我も愛しく思えるじゃないか」

態と小娘の顔を見ながらその足に口づけて、少し唇で辿ってやる。照れたような困ったような顔をした小娘が一瞬悩ましい表情になった。

「ふん、あまり男を煽るような表情をするな」

「しっしてません!」

「くくっまぁ私の前だけでならいいがな」

笑いながら薬を塗ってやる。後で極渋茶を入れて小娘の買ってきた干菓子を食べてやろう。
まだまだからかうことが出来そうだ。










HappyValentine!


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