腕/高杉さん


その日は朝から紘の姿が見えなかった。やれ買い物に出たと言われ追い掛ければもう帰ったと言われる。
帰ってみたら台所にいると言われ、言ってみれば人払い中です、と言われて会えない。
俺はすっかり拗ねて部屋でふて寝していた。

「晋作さん?」

ふて寝していたのに当の本人はにこにこしながら部屋に入ってくる。ぶっすーと拗ねたままの態度で俺はなんだ、とぶっきらぼうに聞いた。

「晋作さん善哉好き?」

「ん?ああ」

「よかった!白玉善哉作ったの、よかったら食べて」

はい、と差し出された椀を受け取る。好きな女の手作りを喜ばない奴なんていない。
早速一口食べれば美味しい?と紘が聞いた。

「美味い!」

「よかった」

「今朝から慌ただしく何かしてたのは、これのためか?なんだって急に」

俺は手を止めることなく聞く。椀はあっという間に空になろうとしていた。

「うん、今日ね未来ではバレンタインって言って好きな人に甘いものをあげる日なの。だからどうしても晋作さんに何か作りたくって…」

「…」

からん、と匙が椀に落ちる。紘がそれを見ておかわり持ってくるねと笑ったその腕を引いて、そこに口づけた。

「ひゃっ!?…え、晋作さんな、何?」

「全くお前は…本当に可愛いな」

「いきなり何っ…」

「おかわりは後でいい。もう少し俺のそばにいろ。今日は朝から会えなかったんだ、紘が足りん」

「っ…」

赤くなっていく紘がやっぱり可愛くて腕の中に閉じ込めた。









HappyValentine!


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