目の上/沖田さん
「沖田さん!」
「紘さん」
たたたと駆けてくる彼女に僕は目を細めた。
待ち合わせして一緒に甘味を食べませんか?と言ってきたのは彼女の方だ。行きつけの茶屋で僕はお茶だけ頼んで待っていた。
「お待たせしました!」
肩で息をする彼女を隣に座るように促す。間髪入れずに彼女があんみつを二つ注文した。
「ごめんなさい、遅くなって」
「ううん大丈夫だよ」
そんな話をしている内にあんみつが運ばれてきた。二人であんみつをほおぼる。
「今日は何で僕を誘ってくれたの?」
「あ、今日はバレンタインって言って好きな人に甘いものをあげる日で」
「え、」
ぽろり。
思わず匙を取り落とす。彼女が慌てたように拾おうとして、
「あ!」
ばしゃん。彼女が自分の分のあんみつを取り落としてしまった。
「あー…」
眉を下げて少し涙目になった彼女の涙を拭うように僕は唇を寄せた。
「えっお、沖田さん!」
「泣かないで。君の匙で僕のあんみつを二人で食べればいいよ」
「あ…」
「ね?」
「はい!」
にこっと笑った彼女に僕はやっぱり笑った顔が一番可愛いなと思った。
HappyValentine!