頬の上/以蔵


「以蔵ー休憩しないー?」

いつものように庭で鍛練をしていたら後ろから呼び掛けられる。振り向けばあいつが縁側でぶんぶんと手を振っていた。
刀を鞘に戻して手ぬぐいで汗を拭って縁側まで歩いていくと、あいつは笑顔になってその場に座った。相変わらず単純だ。

「お疲れ」

「ああ」

差し出されたお茶を飲み干し、隣に腰掛けるとはい、と何かを手渡された。

「なんだ?…おはぎか?」

「うん」

「買ってきたのか?それにしては形がいびつだが」

「…作ったの!」

「作った?お前が?」

「そう」

「…食べていいのか?」

「うん!」

紘が作ったと言うおはぎを一口食べる。それは買ったのと別段変わらないように思えた。

「ど、どう?」

「形はいびつだけどな、美味い」

「もーいびつは余計!」

「ふっお前も食え」

「うん」

紘が一口食べたのと同時に俺の分の残りを口に放り込む。手に付いたあんこを舐めとって気になっていたことを口にした。

「何でいきなりおはぎなんだ?」

「う…それはその」

「?」

「今日バレンタインって言って好きな人に甘いものをあげる日、だか、ら…」

あんこを口につけたままぼそぼそと話す。好きな人、のくだりから急に声が小さくなったな…。
俺はそんな紘の反応が面白くてつい笑ってしまう。
おはぎを持ったまま固まっている紘の腕を取って引き寄せると頬に付いたあんこをぺろっと取ってやった。

「ひゃっ!?い、以蔵!」

「早く食べないと手が酷いことになるぞ」

「あっ!」

まあもう大分酷いことにはなってるんだが。ぐちゃぐちゃのおはぎをみてわたわたする紘をみて、やっぱり面白いとつい口元が緩んだ。










HappyValentine!


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