壊れない花



俺なんかじゃあいつには触れられない―





ずっと先生の為だけに生きてきた。人を斬り、血と脂で己と刀を汚した。
目には見えないけど己の手はもう取れないくらいに血に汚れている。
そして数多の命が俺が幸せになることを止める。
意思もなく斬り捨ててきた奴らの意思が。
だから俺は触れられない。
あんなふわふわして柔らかい、触れたら壊してしまいそうなあいつには。
平和と平穏の中で生きてきたあいつには。

「…ほんと、ばかだなぁ以蔵は」

「馬鹿とはなんだ!」

私のこと、嫌い?と泣きそうな顔で言ったあいつに縁側で気持ちを吐露すれば、泣きそうな顔のままふにゃりと笑った。その情けない笑顔に気持ちがざわつく。
こいつはいつも俺の心の中に土足で踏み込んできて、そして足跡を刻んでいくんだ。

「私はそう簡単に壊れないよ」

そう言って紘が俺の胸に飛び込んできた。背中に手を回してぎゅうっとだきつく。ふわふわした柔らかいものに包まれて俺はうろたえた。

「ばっ馬鹿!やめろ!」

「ねぇ以蔵、私触っても壊れないよ」

だからちょっと触ってみてよ。って言う紘に促されるように俺の手が恐る恐る折れそうに細い肩に触れる。そしてその背中を滑るように腕を回した。
ぎゅっと少し力を込めて抱きしめても壊れることなんてなく、あいつは嬉しそうに俺に抱き着く力を強めた。

「壊れないでしょ?」

「ああ、そうだな…」

俺達はそのまましばらくの間、縁側でただ抱き合っていた。









壊れない花


―――――――――――
30000フリーリクエスト・やっこ様へ。
以蔵ならばなんでも!というリクだったので(シチュを限定するほど以蔵の作品がないのは紛れもない事実ですが…)以蔵にスキンシップさせようと思って書きました。
ほんとは幸せにしたかったんですが私の力量が及ばず。
以蔵は自分の手が血に汚れていることを気にしているけれど小娘ちゃんはそんな以蔵の作った壁をあっさり乗り越えてくれるんじゃないかな。
幕恋一幸せにしてあげたい男だな、と思います。
やっこ様のみお持ち帰り可能です。



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