その心、未だ不可侵



あれからと言うもの紘はごく自然に距離を置くようになった。
気をつけていなければわからない程の自然さでワシから確実に距離を置く。手を伸ばせば届く、じゃが伸ばせない。
触れればまた、きっと。
同じことをしでかしかねない。

「龍馬さん、具合はどうですか?」

「おおワシはもう元気じゃ!」

「あまり無理しちゃダメです、今日一日はまだ寝ててくださいね」

「うう…つまらんがじゃ…」

「ダメです!」

「紘が話し相手をしてくれるなら別だがのう」

「え?」

「何もせん、駄目かのう」

「いいですよ」

そう言いながら紘はワシの枕元に座る。
恋仲なのに絶妙な距離感を保った今の状態は当事者のワシから見ても危うい状態だと思った。
どちらにも転げてしまいそうじゃ。
そっと手を伸ばし指先に触れるとびくりと肩が跳ねた。それでも怯まずに指を絡める。怖ず怖ずとワシを見る紘を近くで見たくてワシは絡めた手を引く。布団の中に引っ張りこんで、抱きしめた。抱きしめた小さな体が酷く緊張していることにはとうに気が付いていた。

「紘…好きじゃよ」

「私も…龍馬さんが好きです」

何だか泣きそうな紘の顔を見詰めてそっと顔を寄せる。まるで初めての口吹いみたいに馬鹿に緊張して、ぎこちなく触れたそれは今までで一番愛しく思えた。









その心、未だ不可侵



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30000フリーリクエスト・上田様へ。
「こいわずらい」の続編でちょっとだけ暴走する龍馬さん、とのリクでしたが…
あれ、読み返してみるとあんまり暴走…してない…?
いやでも龍馬さんは嫌がる小娘に暴走できない気がして仕方なかったんです、よね。
抱きしめたのが龍馬さんの精一杯の暴走でした。
上田様のみお持ち帰り可能です。



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