三匹目



神様は私が嫌いなのだろうか。

「ちょおいい?」

授業が終わって帰ろうと思ったら彼が教室の入口まで来ていた。
私が絶望的な気持ちに浸っていると友達が謙也くんやん!知り合いやったん!?と騒ぐ。知り合いじゃない。出来ればお近づきになりたくない。紹介してや!と騒いでいるが勝手に出会ってくれとしか思えない。
ていうか彼も嫌いって言われた相手によく会いに来れるな…やっぱりただの馬鹿なのだろうか。

「俺この子と話したいんや、すまん」

友達の猛アピールを避けて彼が私の手を取る。片手ですまんとやる仕草も絵になっていて友達は一気にめろめろになっていた。イケメンてすごいな。

「ほな行こ」

いや私いいって言うてませんけど?彼は沈黙を肯定と取ったのか勝手に手を引いて歩きだした。注目浴びるからせめて離してくれないだろうか。そう思って手を引こうとしたら自分逃げるからあかんとぴしゃりと言われた。ばれてる。





連れて来られたのは空き教室で少し、埃っぽい。
私の手を離すと壁を背に座り込み隣をぽんぽんと叩いた。座れってことか。その汚い床に。
流石に腰を下ろすのは憚られたのでスカートを抱えてしゃがみ込んだ。

「単刀直入に聞いてええ?」

「…どうぞ」

「擬態ってなに?」

なに、と言われても説明しづらい。というかめんどくさい。理解されないだろうし。

「あなたは擬態してないんや」

「え、やから擬態て」

「私はまだ蛹のままだから擬態せんと生きてけへんの」

「擬態てなんなん」

「…」

「え、そこ黙るん」

「…」

「説明出来ないことなん?」

「…出来ないって言うか」

「おん」

「めんどい」

「めんどいんかい!」

「と言うわけでさよなら」

「ちょっ!おい!」

ガラガラと建て付けの悪いドアを開けて廊下を覗く。どうやら人はいない。
説明しろやー!と騒ぐ彼に振り返り一言。

「自分は成虫しとってええなぁ」

「…は」

ここ三日振り回されたんやしちょっとくらい意地悪してもええよな。
そう思いながら教室を出た。

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