空に大きな音と共に咲き誇る儚い花がある。
火薬に繋がった導火線に火をつけて、空へと打ち上げる花火。
化学反応によって様々な色へと変化する炎を、空という黒い世界に打ち上げることでそれは花の形を作り出す。
いや、その円状を人が花だと錯覚しているだけかもしれない。人間の感覚に絶対は無いのだから。
それこそまさに集団心理といっても良いのではないだろうか。
花火が生まれて何百年もたった今では、もはや花の形を成していない物も多いのだけれど。
それにしても、花火という物に祭りはつきもののようだ。とはいえ今年行くのは今回が初めてな訳だ。
ちなみに、散々前書きしたが当の花火はまだ咲き誇っていない。
「やっぱり偶には外でぇへんといけんなぁ」
因みに俺の今日の格好は白衣ではない。家で確かに実験していたが、そのまま繰り出すことは許されなかった。
家を出た瞬間まさかの狗牙・黒丑コンビに遭遇。凄まじい顔をされましたとも、ええ。
『………………お久しぶりです、梓くん……』
『お前、そのままで祭りに行く気か』
『家でも白衣なンですねぇ……ビックリシマシタ…』
『実験でもしていたのか?相変わらずというかなんというか……呆れたところだな…』
『やはりマッドサイエンティストでいいのでは?その様子だと外出てないンでしょう?』
『日に日にやせ細っているのではないか?そのうち骨になりそうだな』
『すんません(´・ω・`)堪忍してや』
『『解ればいい(です)』』
まあそんな感じで家が近かった牛さんの家へLet's Go!
俺の丈にあう着物がまさかの白だった☆
ということで、白に鯉と波紋?みたいな着物で、眼鏡無し(割ったった☆)コンタクト装備で、右手に林檎飴、頭に狐面(よぉ解らん子どもがくれた大人サイズ)という……めっちゃ満喫しに行ってます。
着付けてくれ取った牛さんとは別に狗牙に鈴つきの紐で髪結われたから、何時もと位置が違う。低い。歩く度にチリンチリン言う。ぶっちゃけ楽しいです。
「ゆーてもぼっちは寂しいわな」
シャリ、と林檎飴を囓り雑踏の中をゆく。家族連れやリア充達とすれ違うたびに自分が一人だと言うことを思い知る。それはそれで充実しているから良いのだが。
「牛さんらぁがまさか祭りデートとはのぉ……男だけやけど…」
くつくつと喉の奥で笑い、口の中の林檎をかみしめる。甘みが口の中で広がってその楽しさに目を細める。
そういえば最近女子達にやたら関西弁のキャラに例えられる。最近で言うとなんとかっていうバスケ漫画の……妖怪サトリだったか、なんかそんな感じの物に。
眼を細めると似てるらしい。でも俺はそこまで性格悪くない……はずだ。
「……あれは……りおクンやん!!逆ナンてwwwモテるのぉwwww」
視線の先には我が愛しの五為理苑くん。珍しく女子に囲まれている姿を見ると、どうやら逆ナンされてテンパっている様子。
いつも弄られ役でも、所謂イケメンの部類に入る方だから……今まで無かった方が不思議なくらい、か?
ああ、それにしても……
「あかんやん。そないな顔他人に見せたら……。混乱して余裕のぉて、涙目なん……俺だけの特権であるべきやろ?」
くつくつと、先ほどとは違う種の笑みを漏らしながら、理苑の方へと近づいていく。頭に着いていた仮面を顔の正面に。本来の正しい付け方にして俺だと解る証拠を覆い隠す。これじゃあまるで変質者だ。でもこの祭りの雰囲気に合わない訳じゃ無いから別に構わないだろう。きっと今日だけは許されるはずだ。
しゃん、と鈴の音がする。風がちょうどいいタイミングで吹いてきたおかげで着物がはためき、夜闇に異様な白が舞う。
ざわめく女性に一切視線を寄せず、理苑の腕を掴んだ。
「……え?……あ、の……どちら、さま……です、か」
「ええとこ連れてったる」
無理矢理理苑を引っ張れば、案外簡単に蹌踉けて女性陣の中から俺の方へと引き寄せられた。そのまま彼女たちの声も理苑の声も聞かずに、どんどん人混みをかき分けて進んでいく。
鳥居を越えて本殿の階段の所まで行くと、そこに人の姿はなかった。
「ふwwwwあはははははwwwwww」
「?!!」
「あーおもろかったwwww」
「え、何がしたかったんですか」
「自分こまっとったやろ?wwせやから助けてんww」
「ありがとうございました………お狐さん」
「俺はおいなりさんでええで」
「今度作って持っていきますww」
声も口調も変えられないからばれているのだろうな。でもそれでも乗ってくれるのが嬉しくて、ケラケラと笑った。
理苑も俺の声につられるように笑い出して、そのままどんどん時間が過ぎていくようだった。
そして突然、バンと大きな音が鳴り空に大輪の花が咲き誇った。
「わ、」
小さな声を上げる理苑。いつのまにか笑いが止まって、その花に魅入られていった。
「……硝酸ストロンチウム……硝酸バリウム、カリウム……アルミニウム粉末……」
「え?」
「ん?」
「……っww」
突然理苑が吹き出して、思わずポカンと口を開けてしまう。聞けば科学者や理系の人間は花火を見るとその材料等を口にしてしまうらしい。そういえば、俺も癖になっている気がする。たまにはそういう所から離れてただ感動だけで見つめてみたいものだ。
「のぉ……花火、きれいやなぁ」
「……はい」
空に咲き誇る大輪の火の花たち。あっという間に消え去ってしまうのに、たかが化学反応のたまものなのに、なぜこうも人の心に強く残るのだろう。
夏の始まり、夏の終わり、人が何度も打ち上げるそれを、例え偶然でも良いから誰かと、できれば理苑と共に見ていたいと思う。
感傷的になるなんてらしくないけれど、今日ぐらい許されるだろう。
「明日はみんなでおいなりさん食べよな」
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