最近よく、どこか懐かしいような夢を見ます。
しかし、実際にそれを体験した記憶もなく、現実にあったとは到底思えないような、あまりにも漫画チックで非現実的な内容だった。
なぜ懐かしいと思うのかなんてわからないけれど。
その夢は毎夜、繰り返し繰り返し眠っている間の私を支配する。
目が覚めたときにほとんど覚えていないというのに、毎夜、毎夜。
巡り会い
私には、幼少のころよりコンプレックスというものがあります。
それは、目の形。
いわゆるたれ目というやつで、己の顔の幼さを引き立てているようにしか思えなかった。
他人からすればそんなことで、というほど単純明快なくだらない理由かもしれない。
それでもどうしても嫌で嫌で仕方がなかった。
だからだろうか。
小学に入学するあたりに、祖父にもらった厄除けの面というやつを常日頃からつけていることに抵抗がなかった。
このせいで教師に注意を受けたり、周囲の生徒から気味悪がられてもだ。
顔を見られるよりはマシです。
そんな捻くれた考え方を持ったまま、いつの間にか高校生になっていた。
「狗牙、顔色悪いぞ?大丈夫か」
「心配いりませン。いつもの事ですカラ」
高校に上がり、この奇妙な面をも受け入れてしまう妙な校風のせいで、幾人かの友人ができた。
といっても、専ら一つ上の……所謂先輩にあたる人たちだったが……
今一緒にいる男――環薙考輝もその一人だ。
夢を見始めたのはこのあたりからだった。
どこか懐かしいような、幻想的で現実味のない夢。
「いつもの……というと、また何か視えてるのか?」
「はい、まぁ……」
そして、夢を見れば見るほど、本来、人が視えるべきではないモノ達が視えるようになっていった。
「すみませン。今日は早退させてもらいますね。」
「そうか……お前の担任に伝えておこう。あまり無理はするなよ?」
「大丈夫ですよ。私にハこれがありますカラ」
「本当に魔を除けてくれるといいんだがな」
「何事も信じたもの勝ちですヨ」
固い仮面を指でつつきながら微笑みかける。
そんな私を見て至極当たり前のように心配してくれる考輝
彼の気遣いがどこかくすぐったい。
「では私は帰りますね。」
「ああ。」
軽い挨拶を交わしてそのまま昇降口へと向かう。たいした物は持ってきていないので、置いて帰っても問題はないでしょう。
ふう、と小さくため息をついて帰路につく。
別に熱があるわけではありませんし、たまには、違う道でも通りましょうか。
「まっすぐ帰れば良かった……」
気まぐれに、と、どんどん知らない道を歩いていくと、いつの間にか人ならざる者に囲まれてしまった。
そのまま何か特別な力にでも誘われるかのように山の中を進んでいく。
こんなところ、人間が入ったらいけないんじゃないでしょうか。
そんな思いとは裏腹に、奥へと勝手に進んでいく。
途中で抜けられたらよかったんですけど……ちょっと無理そうですね。
そうしてたどり着いたのは古びた、大きな神社。今にも幽霊が出てきそうな、ある意味では今の状況に一番合っているといえる場所だった。
「ここは、一体」
小さな呟きは風にかき消される。
ザァと、葉が大きな音を立てるほどの強い風が吹いて思わず目を細める。
気づけば私を取り囲んでいたはずのモノ達が何事もなかったように消え去っていた。
その代りとでもいうように、目の前に一人の少年を残して。
「“見つけた”」
「“ようやく、ようやくだ”」
顔の全体を狐とも狗とも言える白い仮面で覆い、頭は新緑を思わせる緑髪が太陽に輝いている。服装はというと、薄水色の生地に黒い帯。襟の部分は濃い赤という和服を、乱れなく着ている。近所の子供、というには少し……いや、かなり無理がある。こんな場所で、仮面を被った着物の子供が遊んでいるわけがない。それに、目の前に少年には、白い、犬のような耳が生えていた。
少年の声が、響く。
「“一体何年お前を探し続けたことか”」
「“ようやくだ”」
「“見つけた、見つけたぞ”」
「“鴉”」
再び風が木を鳴らす。
そして音がやんだ瞬間、少年がすごい勢いでこちらに迫ってきた。
「“今度こそ、その喉噛み千切ってくれる!!”」
「なっ…?!」
「“くたばれ!”」
「ちょ、待ってくださいよ!!人違いです!大体、カラスってなんなんですか!」
「“人違いなものか!その面、間違えるはずがない。それに”」
「…………っ」
「“お前からはあの嫌な匂いが溢れ出してくる”」
襟首を掴まれて仮面越しに睨み付けられる。
身に覚えのないことで、なぜこんな目に合わないといけないんでしょう。まったく……
本来なら使いたくなかったんですが、しょうがありませんね……
「ぎゃんッッッ」
「少しは人の話を聞きなさい!」
いつかだったか昔、考輝に教わった喧嘩法を駆使して相手を取り押さえる。
習ったときは絶対に使うことはないと思っていたのに。意外なところで役に立ちましたね。
「離せ!」
少年がジタバタと暴れだす。以外にも非力なその少年に意外性を感じながら、視界の端に移った仮面を見る。どうやら少年がつけていたものらしい。
ということは今の少年は素顔ということで。
そういえばどこか声の感じが変わっている。
「離せと言っているだろうがバ鴉!」
「誰がバカラスですか!!大体、さっきからカラスってなんなんですか!!」
この後数十分ほどかみ合わない言い争いを続けた。
これが、人ではない少年、灯十也との出会いだった。
―――――――
続く、かも?
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