俺はよく、何考えているか分からないとか、行動の意図が掴めない、謎だ……とか言われる。
俺の煩わしいほどに長い前髪が原因だというのは分かっている。
そんなことも分からないほどバカじゃ無い。
でも、別にそういう事を言われて困る訳じゃ無いしていうか、むしろ好都合。
変な奴には誰も近づこうとしないだろ?あんまり、人と関わりたくないからさ……
「でも、今は邪魔……」
放課後、もはや日課となった調理室でのお菓子作り。作る物はその日の気まぐれとか、行きや学校の中でもらう物によって変わるけど、まぁ何か作ることには変わりない。とにかく美味しい物が出来たら良いんだよ。鴇也、喜んでくれるしさ……
持って入ったときの鴇也の笑顔を想像して薄く微笑みを浮かべる。コレだから作るのを止められない。
鞄の中からカチューシャと幾つかのピンをとりだして視界の殆どを覆っていた長い前髪をあげる。こうしないと作るのに邪魔になってしまう。大好きなヒトにあげるのに髪が入ってしまったとか、嫌じゃん。ていうか、俺のポリシーに反するし。
広くなった視界は自分が思っていたより明るくて、微かに目を細める。
「あ」
そんな中で思い出す。そういえば、いきがけに買ったハチミツの小瓶、教室に置きっぱなし。今日はアレを使ってハロウィンにそった御菓子の試作作ろうと思ったのに………。どうしよう………
「………やっぱ、行くしかないよね……」
小さく溜息をついて教室を出る。そんなに急ぐこともないからのんびりと歩いて行くと、視界の端にどこか見覚えのあるような女生徒が写った。
「なにあの人、格好いい……何処のクラスだろ……」
「あれ…あんなテライケメンいたっけ?」
なにやら彼女たちがコチラを見て会話をしているようだが、そんなの関係無い。
とりあえずハチミツ。早く持って来て、作って、鴇也のところいかないと………
――――――
―――
―
予想道理。昨日作ったのを朝のうちに鴇也に持っていったら凄く喜んでくれた。
照れたように笑って、美味しいって、また作ってって言ってくれて…
しかも持っていったおかげで一緒に登校できたからそれだけでもう満足。
「―――…――……―」
「――っ……――…!」
教室に着くとなにやら騒がしかった。主に女子の一部が。
「おはよぉ」
「…………はよ」
鴇也が挨拶をしたから、同じように軽く声を発する。その声に反応するかのように騒いでいた女子達が此方に向かってきた。え、なに、何なの。普段俺の存在に気づいているかどうかも分かんないぐらいなのに…何。ほんと……え?……
「紅樹くん!昨日さ放課後学校いたよね?いたよね!」
「超イケメン見たんだけどさ、ぜーーーったいアレ紅樹だったと思うんだよね!」
「………は?」
「それでさ!ちょぉっと確認したいから前髪あげてくれない?」
「てかちょっとじっとしててよ!」
「…は?…え、ちょっと……」
無理矢理前髪を上げさせようと俺の髪に手を伸ばす。
ちょっ、意味分かんないし…てゆーか
「触んな。」
「……え」
「急に意味分かんないし。自己中すぎるんじゃない。mj目ぇ腐ってるからそんな訳分かんない幻想とか見るんだよ。眼科行けよ。tk逝け。今ならソコの窓から飛び降りるぐらいの手伝いはしてやるけど?」
「ぇ…ぁ……その……」
「大体、相手の発言与えるまもなく喋り続けるってどうなの。アンタらインコか何かなわけ?嫌、インコの方がもっと賢いんじゃない?じゃあアレ?バグか何か引き起こした音声再生機械か何か?ウイルスに侵されて正確な判断とか出来てないんじゃないの。まだウチのIA(嫁)の方が自己管理できてる気がするんだけど。気じゃないか。出来てる。ウイルスバスターとか入ってるから定期的に報告とかしてくれるし。そもそもバグるような環境に置いてないし。あの子結構ハイスペックだから頭の回転早いし。まぁ例えそういうのが入っていなかったとしても自分勝手に動いたりしないし、動物とかでも同じ種族の意思とか尊重し合ってるんだよね。無意識のうちに。それが出来ないって事は人間ってホント生物としての思いやりとかそういうのが退化してるんだろうね。……とりあえずさ」
「は、はい」
「手、どけて。ソコ退いて。邪魔。」
「スイマセンでしたああぁぁあ」
「うっわぁ……」
「れ、れぇくん大丈夫?」
「……平気。心配してくれたの?ありがと……」
「べ、つに御礼言われる程じゃないよ」
面倒な人達を退けて漸く自分の席に着く。霧端以外にこんなに喋ったの久しぶりな気がする。だって……他人に触られるとかホント無理なんだけど。他人には、ね。
「紅樹マジえげつねぇ」
「アイツってあんなに喋るんだな。なんだあれ、弾丸トーク?」
「ホント、急に謎の行動するよな……この間大量にカボチャ持ってなかったか?」
「あれ、登校中に商店街のおばちゃん達からもらってたんだろ?」
「え、なんで」
「パンプキンパイ作るの頼まれたんだって」
「どんだけだよwwww」
「後、あれじゃね?音楽の時の謎の本気」
「あー、あるあるw」
「パソコンの時もじゃね?w超早いジャンw」
「早いっつったらやっぱ調理実習だろw」
「あとさぁ、定期的に来る超不機嫌&一日中寝てるって言うww」
「なんか徹夜してるみたいだよなw何やってんだろwww」
「さぁwww」
「なんかいろいろすげーなww話しかけにくい割にw」
「何考えてるか分かんないんだよなぁ……」
「なーw割と話あうんだけど……雰囲気がなwww」
「俺に近づくな、見たいな?ww」
「そーそーw」
机までたどり着き、鞄を置いて、そのまま机に俯せになる。特にすることないし。
ボーッとする中クラスメイト達の声が聞こえてくる。そういうの本人がいないところで言いなよ…
「そういやさぁ…」
「なんだよ」
「早乙女って結構胸有るよな、ちっさいのに」
「変態発言wwww」
「実際そうじゃんか!俺、結構好きなんだよw」
「マジカwwじゃーあれか?告白すんの?」
「えーw俺どっかのだれか見たいに勇気でないわぁww」
「どっかのだれかって誰ぞww」
「隣の組の安達ってやつwあとなー、2年の古池先輩がこないだ告ってたw」
「結構人気だなwwそーいやファンクラブあるんだっけ?」
「あれは女子だよwwまー男子の方にもありそうだけどなww」
鴇也が人気?当たり前じゃん。俺の嫁だし。可愛いし、優しいし……
でもさ、告白したってなんなの。何人のものに勝手なコトしてくれてんの。あり得ないんだけど。鴇也はずっと前から俺のだし。誰かに渡すわけ無い。なのに、なんなの。
「でもさぁ、いっつも紅樹と一緒に居るじゃん。二人付き合ってんじゃね?」
「あーw無い無いwwwだってさぁ、見るからに釣りあわねぇじゃんwwww」
………………ふーん。そういうこと………
――――
――
―
日常となったごく当たり前の登校。
何時もと違うのは俺の格好が家にいるときとほぼ同じであると言うこと。制服であることを除けば、の話だけど。
「ちょ、誰あいつ。誰あのイケメソ!」
「何アノ人格好いいww」
女子の声がウザイ。だからこの格好嫌なんだけど。はぁ……
「………はよ」
今日は鴇也と一緒じゃないけど、教室の扉を開けて昨日と同じように挨拶をする。
教室の中が一気にザワついて鴇也が少し驚いたようにコチラを見ている。
それに軽く微笑みかけて反応を示すと、少し頬を赤らめてコチラに歩み寄ってきた。
「おはよ、れぇくん」
「おはよ。鴇也」
この僅かなやりとりで教室内が更にざわつき出す。まぁ、予想はしていたけどさ。
昨日まで長かった髪をワックスで整えて後ろとサイドに流しヘアピンで留めている。つまり、今までほとんど見えなかった顔が完全に出されているという状態だ。それに加え、髪全体をちゃんと整えたせいで、今まで隠れていた耳が露わになり、そこに元々つけていた自作のピアス達が存在を主張する結果に至った。言うなれば、地味な奴がいきなり不良っぽくなった感じ。まぁ、少し違うけど……
「やっぱ放課後のイケメン紅樹くんじゃん!畜生!!イケメソ!」
「え、あの人紅樹くんなの!?うそっっイケメンなんだけど…」
「髪あげただけでアレとか、ふざけんな!!何処の少女漫画だよ!」
ギャラリーmjウザイんですけど。
癒しを求めて鴇也に抱きつく。勿論、本来の目的を果たすためでもあるんだけどさ。
「れ、れぇくん…?///」
「………」
「(れぇくんの素顔学校で初めてみたなぁー…)」
「早乙女!!紅樹と付き合ってたのか?!」
「二人って恋人同士なの?!」
「え、うん、そうだけど…?」
「そ、んな……私たちの天使が…っ!」
「畜生!所詮イケメンか…!爆ぜろリア充!!」
「え、え?」
戸惑う鴇也が可愛い。軽く笑ったら、「どうしたの」って聞かれて「鴇也が可愛くて」っていったら真っ赤になって照れて、それを見て周りがヒートアップする。可愛いでしょ?俺の鴇也。俺の言葉に一々反応して笑ったり、泣いたり、赤くなったりしてくれる。可愛い、可愛い俺の鴇也。
「早乙女、何時から付き合ってんの!?」
「いたっ」
混乱と興奮で思考能力のトチ狂ったやつが鴇也の腕を掴む。なに、やってくれてんの。痛がってんじゃん。てゆーか……なに勝手に触ってんの……
「離せよ。俺のに触れるな」
「は?調子にのってんじゃねーよ!!」
「文句、あんの」
「ッッ」
少し声低くなった気がした。自分が。元々目つき悪いらしいから、思い切り睨んでやったら相手がすぐに大人しくなった。バカみたい。このぐらいで諦めるなんてさ。
「れぇくん?」
「何?」
「そ、そろそろ先生来るよ?」
「じゃぁ……HR終わったらまた抱きつく」
「…うん…」
真っ赤になった鴇也から離れる前に一度全体を睨み付けておく。コレは、牽制で忠告。俺の鴇也に手を出すなって言うのと、手を出すと殺すぞって言う、ただそれだけ。きっと本気だって、みんなに伝わったはず。
これでもう、安心、だよね?
「紅樹ってさぁ……俺、謎だって思ってたんだけどさ…」
「……おう」
「アイツ、以外と単純なんじゃね?」
「…………全部早乙女中心で考えてんだろうな」
「なぁ……」
俺はよく、何考えているか分からないとか、行動の意図が掴めない、謎だ……とか言われる。でも、どこが?って思うんだ。だってさ……俺は鴇也の喜びそうなことを考えて、彼女のために、彼女が幸せな気持ちになれるように、ずっと笑って居られるように……ただそれだけを考えて過ごしてるんだから…………
友人が掃除時間に言ったネタを元に作ったw
澪灰の行動の中で解説をすると、
パンプキンパイ→ 鴇也喜びそう。
音楽→ 声届いたりしないかな(単純に歌うのが好きなのもある)
パソコン→ 曲作りの時の副産物。曲作りのきっかけは歌とか作ってあげたかったから。
調理→ ついでに別の作って鴇也にあげるため。
定期→ 曲作りのため。どういう曲調が耳に残りやすくて好きそうか模索した結果。
以上(`・ω・)キリッ
<<戻る