大事なものはなるべく手の届く範囲に置いておきたいと思う。
そう考えるのは当たり前のことなんやない?
誰だって大事なものは傷つけられたくないし、奪われたくないし……
それが人やったとしたら、自分の手の内からスルリと抜けださんようにつなぎ止めておきたなる。
普通やろ?
やったら、別にええやん。
俺とずぅっと一緒におってや。
逃げんで?
「りおクン、どこ?」
校舎内を歩き回る。硝子に薄く塗った血のような色に辺りが染まっている。
ああ、もう夕方なんやね。頭の隅で思い浮かべた。
何時間、こうやってりおクンを探し回っとるんやろ。まだ外には出てへんはずや。
やってどの出入り口にも“仕掛け”しとるもん。出たら直ぐわかるっちゅーねん。
「なぁ、どこ?」
じゃらじゃら、と手に持っている鎖が音を立てて、誰もいない廊下に響き渡る。
せっかくりおクンのために買ぉたんに。逃げたらあかんやん。
真っ赤な真っ赤な首輪。俺のもんやって印。鎖は勿論、こうやって逃げんように。
あぁ。早ぉ首につけたりたい。ほんで、鎖引いて、俺の部屋に連れて行くねん。
ベットにでも鎖繋いで、逃げれへんようにして。
家に帰ったらいつもりおクンがおるやなんてめっちゃ幸せや。
きっとりおクンやって喜んでくれるはず。俺ら、愛しあっとるもんな?
「めーっけ」
空き教室の教卓の下やなんてベタやなぁ。でもそういう所も可愛ぇ。
「……なんや、震えとるん?」
俺が視界に入った瞬間ガタガタと体を震わすりおクン。
どないしたんやろ。もしかして、突然現れたからビックリしたん?
あかんなぁ。驚かせてすまんやな。
「りおク……ッッ……」
手を差し伸べたら勢いよく払われた。怯えるような目。ソレは俺に向けとるん?
なんで?なんでなん。なんでそないな目ぇすんねん!!
「あずさ先輩……なんで、…こんな……」
「なんでて、ずーっと一緒にいたいからに決まっとるやん」
「なんでっ…!」
「愛しとるからにきまっとるやん?」
「……ぇ……」
目を見開くりおクン。どうしたんやろ。今更やのになぁ?
「りおクンかて一緒に居りたいやろ?この間も言うてたやん」
「……この、間…?」
「なんや、忘れてもーたん?この間ウチに来たときにゆーてたやん」
「…そ、なの……知らない…」
「なにいうてん。忘れるなんて酷いわぁ。あんなに愛しあったんに」
「…な、に……何の話…?…ぇ…?」
「……もぉええやん。また後で、ゆっくり話そ?」
「後?あとって……」
なんや分からんけど混乱しとるりおクンと目線を合わせるようにしゃがみ込んで、優しく首輪をつける。
状況理解できひんみたいやけど。きっとあれやね。驚きと照れ、なんやろうね。
「ほな、いこか?」
「行くって……!?…い、やだ……嫌だ、いやだいやだ!!!!!」
りおクンを教卓から出して抱きかかえると、途端に暴れ出す。
そのままバランスを崩してもーて、床に落としてもーた。
りおクンが、扉に向かって走り出す。
逃がすわけ、ないやろ?
行き着く寸前、俺の方が先にりおクンの首に繋がる鎖を手に取り引っ張って動きを止める。
カハッ、なんて聞こえてきて、りおクンが苦しそうにしてるけど、これは自分のせいやろ?
「なんで逃げようとすんねん」
「来るな!!」
「なんで、なんで逃げんねん!!」
「いやだ、いや……来るな、くるなっっ」
「こないに愛しとるんに…なんで逃げんねんッ!!」
俺ら、あいしあっとるんよね?
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