小犬を拾いましタ。
よく漫画などで有る様な雨の降る日ではありませン。
真夏の、最も熱い昼間に。家の前デ。
「くきゅ」
「……妙な鳴き方ですねぇ」
くきゅ、なンて聞いたこと無いのですが。
軽くかがんで子犬の足を持つ。本当はこんな持ち方してはいけないンですけどネ。
なんだか良いような気がして。正直ワタシもよく分からないのですが……
「まぁ、ここで野垂れ死にされても迷惑ですからネ」
足を持ったまま自宅の扉を開けて中へと入っていく。
玄関はまだ暑い。だが、居間の扉を開ければ微かにひんやりとした風が熱されたその身を冷やしてくれる。
日陰のこの部屋は良い物ですネ。出る前に他の扉を開けておいて正解でシタ。
ふぅ、と息をついて子犬を座布団の上に落とす。
「ぴゃっ」
「……本当に犬ですか、貴方」
再び犬の鳴き声ではない奇声を発した。今まで“わん”とも“くーん”とも聞いていなかいら本当に犬なのかどうか疑いたくなってしまった。
いや、姿形的には完全な犬なンですけど。
目元に奇妙な模様がありますけどネ。右だけ、なんでショウ……雫、みたいな…?
それにしても、動きませんねぇ。
人間がバテてでもいるかのように俯せ状態で両手足を広げて一直線の棒のように。
なんていうか、間抜けですネ。そして、野良の癖に無防備すぎです。それじゃ生きていけませんよ。
「とりあえず、なにか持ってきますから………コレでも舐めてなさい」
子犬の前に一つの氷と多少の水が入った小皿を置いてやる。さて、食べられそうな物有りましたっけ?
――――
――
―
数分後、戻ってくると、子犬は数センチ移動して、しかし俯せのままで頭は小皿の上。
どうやら氷を舐めているようで、ピチャピチャと水の音が聞こえてくる。
どれだけ物ぐさなんですか。まったく……
「ほら、どーぞ」
「わんっ!」
「………ちゃんと鳴けるんじゃないですか」
少し離れたところにジャーキーが入った小皿を置いてやる。
探せばあるもんですねぇ。貰い物なンですけど。
「お腹減ってたんですネ」
「わんっ」
「…返事、したんですカ?今。」
何か言えばその後直ぐに“わん”と鳴いてみせる子犬。
この間抜け具合と元気の良さ、何処かの誰かに凄く似ていますネ……
「灯十也」
「わんっ」
「アハハ 本当にそっくりですねぇ」
もう一度“灯十也”と言うと返事をするように吠えた。
可愛いですネ。人間の灯十也と違って、素直で。………この子、飼いましょうか。
「ウチの子になりますカ?」
「わん!」
「本当、何にでも返事するンですねぇ、貴方は」
「わんっ」
暑い夏の日、ソレも真昼に、行き倒れている子犬を家の前で拾いました。
その子犬の名は
ヒトヤ
(深い意味は無いですヨ)(ただ似てたから)
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