ジリジリジリジリ!!
非常ベルが当たりに鳴り響く。
赤いライトが点灯して各々の教室から一斉に生徒達が飛び出してくる。
はぁ、はぁ…
荒い息づかいが大勢の生徒の足音にかき消される。
たった一人追いかけられている生徒は、追いかけられる恐怖と疲労からか表情が引きつり、その目には涙が浮かんでいる。
振りかえれば大量の生徒。現れる者は全てが敵。
味方などもう何処にも居ないのだ。
数十分前まで楽しく談笑をしていた友人達でさえ、自分を捕獲することに目を血ばらせている。
ただ個人の幸福のために、俺を居ってくるのだ。
「うわぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁ!!」
そうして少年の青春は終わった………
――――――
―――
――
「“第1校舎、五為理苑確保!捕獲は2年3組”」
「なんや…もー捕まってしまったんか……ちゅーか、同じクラスにかいwww」
くくくっと喉の奥で意地の悪い笑みを漏らす。
第2校舎2階、かぐや姫の格好で紫蔵梓は立っていた。
生徒会が突如企画した新入生歓迎会。
校内で有名な……というより、生徒会の仲の良い連中がかりだされて行われている。
「りおクン親指姫の格好やったやんね?動きやすい方やん」
内容、と言うほどたいした物ではないが様は、女装したメンバーを30分以内に捕獲すること。
捕獲方法は、生徒会から支給されている投げるだけでいいリング(手錠のような仕組み)を外れないように付けるというだけ。
捕獲者には特典があって、捕獲クラスには人数分の食券(一ヶ月ALL半額)が貰えるという。
そのせいで殆どの生徒がガチだ。目がヤバイ。
因みに特典というのは開始前に全校生徒に伝わっていて、りおクンは頬にキス。そして俺は……
「紫蔵先輩!!大人しくキスされてくださーーーい!!」
「おー、早いお着きやなぁ」
口にキス。ただし男子限定wwww
恐らく女性恐怖症を持っている俺を気遣ってくれたんだろうけど、ソレはソレできつい。
「“始まりました第2回戦!現在1年3、4組が迫っております!”」
「ぉぉ、新入生か。ほな、手加減したらなアカンな」
「相手は十二単だ!!逃げれる服じゃないぞ!」
「先輩は女子が苦手らしい!前方は女子で囲め!!」
今年の一年生は団結力が凄いな。女子のあの目は、多分殆ど腐女子なんだろう。
と言うことは特典狙い。気迫が……あーもう、ほんと怖い。でも……
「甘いっちゅーねん!」
幾重にも重なった着物の間から大量の試験管を取り出して、中に入っていた薬をばらまく。
先頭切っていた女子は勿論、中盤にいた男子生徒まで頭から被る結果となった。
やっぱり一年生は甘い。薬を被った連中はその場に崩れるように眠り、生き残った生徒は圧倒的な戦力不足に闘争心を失った様だ。
「やっぱりやってくれたか」
「あー、やっぱ後ろにおったんか自分ら」
「俺らのこと舐めないでください部長!」
その後ろから現れた部活の後輩と三年生。長い付き合いのせいで俺の行動が読まれているという訳か。
くくっ、面白くなってきた!!
―――
――
―
数分後。
後輩の圧倒的な戦術の前に俺は敗北した。
いや、正確に言うと、持ち合わせていた睡眠薬に部活中に耐性が出来てしまったらしく、効かなかった。
その後着物を投げつけるなどして抵抗したが、そこは長い付き合いである三年生に動きを読まれ、阻止されてしまった。他学年連携とかズルイ!
「さぁ、特典やろーか?あーずさっ」
「ちょっと待ちや!誰が好きこのんで男子とキスするっちゅーねん!!」
「そりゃ決まってんじゃん」
「そうっすよ、部長!」
「へ?」
「ほら、プレゼンチューww」
三年生の間を縫って押し出されたのは親指姫の格好をしたまさかのりおクン。どうやら誘拐されたようだwww
りおクンは戸惑いを隠せないようだったが、まあ特典だし、な。
チュ
軽いリップ音がして女子の黄色い声が響き渡る。
「“第2校舎、紫蔵梓確保!捕獲は3年1組2年1組連合。次でラストです!”」
「っしゃー!この調子で行くぞ!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉおぉぉおお!!!」」」」」
グッと拳を天井に突き出して生徒達が走っていく。
りおクンはそのまま俺と残って、赤くなった顔をそっぽに向けていた。
「りおクン怒っとー?」
「……まぁ、しょうがないですよ。アレは…」
「さよか?ほなら良かった。」
「あのー、梓先輩。」
「なん?」
「最後って確か、アノ人……ですよね?」
「おん。……フラグやな」
「死亡フラグ、ですね」
――――――
――――
――
「“残り一人、最終戦開始です!!”」
「そういや最後って伏せられてたよな?」
「誰だろ、黒丑とか?」
「うっわ、戦いにくいwww」
パンパンパンッッ
響き渡る銃声。倒れていく生徒達。遅れてきた生徒達が見たものはまさに戦場だった。
「さすがっ、やりますね先輩ッッ!」
「…………ッ…お前もな…」
「“第3校舎屋上。最後のメンバーは環薙考輝だ!1年2組栖桜鷹史が喰らいついています!!”」
「これ、一般人入れねぇって!」
「何あの1年パネェwww」
「つかww猟銃持った赤ずきんてwwwww」
激しい銃撃戦が繰り広げられる。
互いが全力を出して戦っているため、避ければ避けるだけ他の生徒達が倒れていく。
たかがBB弾で、だ。
「ちょwwこれはwww」
「ぜってー勝てんwwwww」
「や、でも一年押してね?www」
「っ!?」
「…っは、これで終わりです…」
銃口が倒れた考輝の額に突きつけられる。
「………はぁ…まいった」
「お疲れ様です」
カチャリ
軽い微笑みを向けながら首にリングがつけられ、戦いは幕を下ろした。
聖戦だ!!
(美味しい戦いだな/よね)
―――――
―――
――
【オマケ】
「大丈夫ですか、先輩」
「……あぁ。」
「あの……特典なんですけど……」
「何でも言うことを聞く、か?」
「はい。アレ、俺やりませんから」
「…?お前が勝ったんだ。何でも言ったらいいだろう。」
「だって、先輩が“そんな格好”じゃなかったら俺負けてましたから」
「俺は服装なんて……」
「下、女子の仕業でしょう?」
「っ!!」
「それでもいいなら、空き教室にでも行きたいんですが……」
「……好きにしろ」
―――――
最後のはただの妄想だよね。その後の展開はご想像にお任せしますww
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