時系列:第六章30〜36
リヴァイが掛け布団を少し剥いでベッドに腰掛けた。
「む……ん」
喉から漏れでたのは中年のような響きで、一日の疲れを表すものだった。枕に頭を落とし、いつもの流れで真琴を呼ぶ。
「寝る。来い」
真琴はくすっと眼で笑う。ベッドに腰掛け、
「いまの、すごいおじさんぽかった」
「おっさんで結構。若作りする気はねぇ」
中に入ってこいと、リヴァイは掛け布団を持ち上げる。まだ冷たいベッドに滑り込むと掛け布団を深く掛けてくれた。そしてリヴァイは真琴を包み込む。
このように毎晩、リヴァイの抱き枕であるかのように密着されていた。だから真琴は、色に例えると桃色の気分を持て余す日々が続いていたのだ。
横目を流してリヴァイを見る。頭をくっつけるようにして彼は眼を閉じていた。呼吸も安らかである。あと五分もすれば、おそらくいつものように深い眠りに入るだろう。
冬の時期で寒いから、彼はこんなにくっついてくるのだろうか。リヴァイの匂いと、寝間着越しに感じる体温と、男らしい身体つきと。好きな男にこうも密着されてしまうと、いっぱい甘えたくなってきてしまうし、身体中が火照ってきてしまう。
真琴のウエスト付近でだらんとしているリヴァイの手で、横腹を撫でてほしい。そのまま官能的に滑り上がってきた手に、物足りなく思うかもしれないけれど、二つの小さな小山を愛でられたい。
それから胸許のボタンを外されて、剣だこのある指が侵入してきて、甘い吐息を漏らしてしまうと、リヴァイに意地悪に囁かれて。そんなことを望んでしまい、それで真琴は内腿をすり合わせた。
こんなに身体がつらくなってしまっているのは真琴だけなのだろうか。
「……ねえ」
「あ?」
答えたがリヴァイの眼は閉じられたまま。
「毎日こんなふうに寝てて、平気なの」
「平気も何も、夜は寝るもんだ」
「そうじゃない〜」
なんだ、めんどくせぇ。少し機嫌悪そうな声を出し、リヴァイは真琴の耳許に顔を埋めた。
「寝させろ。今日はたくさん飛んで疲れてる。女のぐだぐだ話にはつき合えない」
「ぶー」
「豚が一匹、豚が二匹、豚が三匹」
相手にされていないのに、耳許で響く低音だけでも真琴の身体は焦れていく。「……ん〜」甘え鳴きしながら、リヴァイのほうに横臥して肩に額を当てた。
リヴァイの瞼がゆっくりと上がる。
「どうした」
「私とくっついてて、リヴァイは変な気分にならないの」
リヴァイのまばたきが数秒止まった。
「平気って……そういうことか」
「私って魅力ない? リヴァイが私に触れてこないのは分かってるけど、いっつもあっさり寝ちゃうんだもの」
こんなことを言っていて非常に恥ずかしいのだけれど、身体は正反対に熱くなっていく。胸を寄せ合っていると、シャツの繊維越しにリヴァイの匂いをさらに濃く感じて、恋しさが募った。
「私だけなの? 身体がうずいちゃうの。それってズルい」
もっと触れ合いたくて、盛り上がったリヴァイの肩甲骨を両腕で抱き込む。
「よせ。窮屈でこれじゃ眠れない」
「眠れないのは私よ。リヴァイが寝ちゃったあとは、いつも寂しいんだから」
リヴァイの両脚を膝頭で割る。と、浅いところで素早く挟み込まれた。
「おいっ」
「したい……って、リヴァイも少しは思ってくれてる?」
さらに腰許も寄せたとき。
「――っ」
火急というふうにリヴァイの腰が引っ込んだ。それから微かに青ざめた真顔でがばっと起き上がる。
「リヴァイ?」
「便所だ」
口早に言ってリヴァイは掛け布団を剥いだ。ベッドから降りて書机の椅子に引っ掛けてある上着を引っ掴む。
「でも、ベッドに入る前にトイレへ行ってたじゃない」
「急に催した。寒いと近くなる」
「話の途中だったのに〜」
「我慢しろとでも」
上着の袖を通しながらリヴァイは扉口まですたすた歩いていく。なぜか身体が若干くの字になっていたが。
「もしかしてお腹が痛いの?」
「あ? ……ああ。冷えたらしい。すぐには戻れない。先に寝てろ」
「一人じゃ眠れないから待ってる」
真琴はぼやいて、柔らかなベッドにぽすんと身を投げた。いじけ気味に掛け布団で身体を覆ったとき、扉が閉まる音が小さく聞こえた。
外からフクロウの鳴き声がする。十五分ほどしてリヴァイは部屋に戻ってきた。
真琴の頭まですっぽり覆っている掛け布団を控えめに捲る。
「一人じゃ眠れねぇと抜かしておいて、すっかり寝入ってるじゃねぇか」
ベッドに腰掛け、リヴァイは真琴を見降ろした。額に手を伸ばして前髪を優しく掻き上げる。
「いちいち煽ってくれやがる。一緒にいてむらむらすんのはマコだけじゃ――」
そこまで言ってリヴァイは情けないさまで長い溜息をついた。