色情を呼び起こされる1

時系列:第六章30〜36

 窓から月明かりが差し込む中、こうしてマコと一緒に添い寝するようになって何夜目か。無防備な寝顔を晒すマコにつられて、リヴァイは徐徐にまどろんできていた。
 リヴァイは不思議に思う。男女が一つのベッドで共にしていれば、性欲が浮上して自然と欲しくなるものだ。言わずもがな、マコを抱きたい気持ちはある。あるけれど、安心しきって傍らで寝ている彼女を見ていると、心が温かなくなって満たされてくるのだ。男女のあいだには、性欲よりも上回る「何か」があるのだろうか。

 軽く握った手を投げ出し、仰向けで寝ているマコ。リヴァイは頭を支えて横臥する。マコの両肩が冷たい外気に当たって寒そうなので、毛布を深めに掛け直してあげた。
 襲いかかってくるような睡魔で瞼が重い。そろそろ見つめるのをやめて寝ようと思ったときだった。

「あ……ん」
 リヴァイは思わず眼をしばたたく。なんだ、いまの声は。どこから聞こえてきた?
「やぁん」
「は?」
 リヴァイのついた声は頓狂だった。眠気が遠くかなたに吹き飛んだ。

 卑猥な声を漏らしたのは、ぷくっとしたマコの唇からだった。悩ましげに眉を寄せて、首をかしいでいる。
「だめぇ、ああん」
 誓ってリヴァイは手を出してなどいない。マコはいまだ寝ており、どうやら寝言らしかった。
「おいおい、ふざけてんじゃねぇ」
 リヴァイは鳴動めいた語気を零した。双眼も吊り上がる。

 一体全体どういった夢を見ているのか。そんなのは甘い声音から明白であり、淫靡な夢に浸っているに違いなさそうだった。甘味な喘ぎ声を耳にしても、リヴァイはちっとも欲情なんてしない。むしろ腹が煮えてきていた。
(誰とやってんだ、こいつめ)
 起こそうと、毛布の上からマコの腹に手を当てて揺さぶろうとした。緩慢に寝返りしてきたマコの手が、リヴァイの寝間着を掴む。

「……リヴァイ」
 揺り起こそうとしていたリヴァイの手は、ひやこい宙をさまよう。
「そこはダメって、リヴァイ、やぁぁ」
(――俺か)

 煮えていた腹は瞬時に冷却された。マコの夢の中で卑猥なことをしていたのは、ほかならぬリヴァイだった。よかったとは思うけれど、嬉しくはなくて複雑な心情である。
 夢の中の自分は、身体をくねらせて感じているらしいマコに、どういうことをしているのか。現実の自分は深く触れたくても触れられずにいるというのに悔しいという思いが半分、リヴァイと同様に欲求が溜まって、ついつい淫らな夢を見てしまうマコに対しても、笑えてきてしまう。

 両の眼は和らぎ、リヴァイの口許は綻ぶ。悶えて縋ってくるマコのせいで、胸の辺りがこそばい。気怠げな響きは寝言特有で、耳にまろい。
「リヴァイ、ダメ。あ、もっとぉ」
「ダメなのかイイのか、どっちだ」
 色情を呼び起こされそうになる。(クソっ)
 なんとか耐えようと眉を寄せるけれど、たまりかねて、リヴァイはマコの額の生え際に唇を押し当てた。柔らかな産毛は子猫のよう。
「マコ」
 熱を孕んだ息漏れ声が、青白い空間に溶け込んでいった。

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