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「ナマエさん、少しお時間よろしいですか?」
「? うん」

アガサ博士の家で子供達の面倒を見ていたら、作りすぎたというカレーを持ってきたスバルに声を掛けられた。

「なに?」
「少々大事なお話があるのですが、近いうちにどこかご予定の空いてる日はありますか?」
「べつに…いつでも大丈夫だけど」
「そうですか。それなら明日、20時頃に僕が今お世話になっている博士の隣の家に来て頂いても?」
「うん」
「ありがとうございます。では、また明日」

大事な話ってなんだろう。あまり話した事無いのに、僕に話して大丈夫な事なんだろうか。良く分からないけれど、約束したからにはちゃんと行かねば。
するとコナンくんが「なんの話してたの?」なんて声を掛けてきたけど、約束をしたぐらいで他にたいした話はしていなかったからなんでもないと返しておいた。だってほんとになんでもないのだし。


△▼△▼△▼△


翌日、約束通りスバルが住んでいる家へとやって来た。インターホンを鳴らせば、一拍置いてスバルが応答する。名前を告げるとどうぞ中へ、と言われたから大人しく従って勝手に敷地内へと入らせてもらった。それにしても大きい家だなぁ。

「こんばんは。すみません、態々来て頂いて」
「べつに。それで…僕に話ってなに?」
「その前に、何か飲みますか?お酒?コーヒー?それとも紅茶?」
「うーん…じゃあ、コーヒー」
「はい」

お酒は飲めないし紅茶もちょっぴり苦手な僕はコーヒーをお願いする事にした。キッチンに消えたスバルは数分後、ふたつのマグを持って戻ってくる。

「インスタントで申し訳ないのですが」
「ううん。ありがとう」

スバルは僕にマグを渡すと、僕とは反対側のソファに腰を下ろした。
お礼を述べ、ひとくちだけ飲む。おいしい。何を食べても味がしない今の僕が唯一味の分かるコーヒーは、トオルの淹れる奴程では無いけどおいしい。インスタントなら誰が淹れても同じになるんだろうか。僕も今度からインスタントを使ってみようかなぁ。なんて思っていたら、スバルが大事な話の事なんですが、と切り出して来た。

「うん」
「実は、赤井秀一の事なんです」
「えっ……?」

アカイ、シュウイチ。なぜスバルからその名前が出てくるのか。なぜ今その話なのか。なぜ、なぜ、なぜ。シュウの名前を聞いただけで、押し殺していた寂しさが、防波堤を破る波のように一気に押し寄せてきて、思わず泣きそうになってしまう。

「ナマエさんは、赤井秀一とはどういった関係で?」
「シュウ…と……?シュウは…僕…僕の、だいじな人……」
「なるほど」
「でももう、いない、から…………」

なんでスバルはそんな事を聞いてくるのか。スバルの表情からは何を考えてるのか全く分からない。
シュウが死んだと聞かされた日から今日まで、FBIの皆は極力僕にシュウの話は振ってこなかったし、名前が上がる事も滅多に無かった。だからスバルの口からシュウの話が飛び出てきたことがほんとにびっくりで。この人は一体、シュウとどういう関係があるのだろう。

「コナンくんからナマエさんが赤井秀一に会いたがってるって話をきいたのですが」
「うん………うん……。あいたい…シュウに、あいたい…。あいたいから、シュウのとこ行きたいから、何度も何度も死のうとしたのに、死ねなくて、もしかしたらシュウは、僕のこと嫌いなのかも……」

僕のこと実は嫌いだから、会いたくないから、僕は死ねないのかもしれない。僕はこんなに好きなのに。こんなに会いたいのに。
シュウの事を考えていたら頑張って止めていた涙が溢れてきた。そんな僕を見て気を使ったのか、そんな事ないってスバルが言った。

「嫌いな筈無いですよ」
「わかんないもん……」
「ナマエ、」

ずっと僕のこと、ナマエさんなんて呼んでいたのに突然呼び捨てされたからちょっとびっくり。恐る恐る顔を上げればなんだかさっきまでよりも少し真剣そうで。なんでだろう。わからない。僕なにかした?シュウの事でグズグズしてるから面倒になって怒ってしまったのかもしれない。

「な、なに……?」
「今から君に見せたいものがある」
「……?」

そう言うとスバルは徐に自分の顔へ手を伸ばす。その様子をボーッと見ていた僕は、目の前で起こった光景に思わず小さく悲鳴を上げてしまった。だって、まるでマスクみたいにスバルの顔が…。でもそんな事は、その下から出てきた正体によってどうでも良くなった。

「え………………………?」

そこには、ずっと会いたかった、ずっと待ち望んでいた、大好きなシュウがいた。
何が起こったのか理解出来ない。これは夢?だってシュウは死んだ筈なのに。なんで。どうして。同じ言葉がずっとぐるぐるしている。
混乱して何も喋れない僕を見て小さく笑ったシュウは、腕を広げておいでと言った。
ほんとに、シュウの声。

「…………っ!」

たまらず僕はその腕に飛び込んだ。