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組織に入り、コードネームを貰ってからどれくらい経っただろう。いつ頃入ったのかも覚えていないが、割と気楽だ。「あの人」もラムも仕事さえちゃんとこなせば僕が何してようが、何処に居ようが文句は言ってこない。
そもそも、人付き合いが苦手で一人が好きな僕が組織というものの中に組み込まれてる事が不思議なのだ。言うなれば僕は社会不適合者だと思っている。基本は引き篭もりだしね。
時たま仕事で、他の組織のメンバーと一緒にならなければいけない、なんて事があっても、極力喋らないようにしている。僕の仕事はハッキングや情報操作であって、メンバーと協力したりして人を殺したり、取引に赴いたりするのは専門外だ。血嫌いだし。
勿論、必要最低限の話はする。でもそれも仕事の一部だから仕方が無く。

『おい、聞いてやがんのかコードネーム』
「一応ね」

携帯を耳に当てながら、パソコンのモニターを眺める。そこに映し出されているのは、次のターゲットであるとある資産家に関する情報だ。それを纏めてひとつのファイルにし、ベルモットのアドレスへ送信する。
耳元ではジンがさっきから電話越しで何かにキレている。

僕はこのジンという男が苦手だ。
冷たい目をしていて、「あの人」以外のものは何も信じてないような雰囲気。組織の仲間でも容赦無く殺す冷徹な男。
会った事があるのは片手の指で足りる程だが、僕とは合わないってハッキリ分かる。だから極力会いたくない。

『土竜のように引き篭もってやがるのもいい加減にしろ。お前の仕事だ。ケジメは付けてもらう』
「そんなに言われなくても分かってる。ちゃんとやるさ。もういいかな? 僕も色々と忙しいんでね」
『話はまだ終わってねぇぞ』
「君が何を言おうが、『あの人』かラムの指示が無いなら動かないよ。それじゃあね」
『おい、コードネーム──』

一方的に話を遮り通話を切る。途端深い溜息が自分の口から漏れ出した。ジンの組織に忠実なところはいい事だと思うけど、あまり僕に関わらないで欲しい。ラムに頼んでおくべきだろうか。


△▼△▼△▼△


根城にしているホテルから少し離れたところにあるパン屋の絶品カレーパンを買い求めに、久しぶりに外へ出たら目敏くジンに見付かった。数回しか会った事無いというのに、良くもまぁ僕を僕だと覚えているもんだ。僕はジンみたいに目立つ見た目はしていないというのに。

「よぉコードネーム、何してんだこんなところで」
「君達こそ」

車の窓を開けてウォッカが僕に声を掛けてくる。それはこっちのセリフだ。

「任務終わりでな」
「ふぅん」
「報告しただろ」
「報告したのってラムにだろ。ラムにいったものは僕には来ない」

僕に報告が来たものはラムに伝えるけれど、ラムからはそれはしない。別にそれで良いのだけれど。そんな事より早く解放されたい。
僕の頭の中は今、カレーパンの事でいっぱいなのだから。

「もういい? 僕も暇じゃないんだよね」
「パン買いに行く暇はあるのにか?」
「ほんと僕、君の事嫌いだなぁ」
「気が合うじゃねぇか。俺もテメェの事は気に入らねぇ」
「じゃあ声掛けるなよ」
「珍しく土竜が外にいやがるからなぁ」
「はいはい」

ジンが僕を土竜と呼ぶのは多分、カーテンを締め切り灯りも点けない薄暗い部屋に引きこもって作業しているからだろう。
言い得て妙ではある。土竜、嫌いじゃないし。

「コードネーム」
「今度はなんだよ」
「明後日、××の倉庫に来い。ラムからの指示だ」
「はぁ……。分かったよ」

仕事だとジンは言う。
何故ラムは僕に直接伝えてこないでジンを介したのか。その真意は分からないが、ジンと同じ仕事に携わるだろう事だけはなんとなく察した。
ジンとの仕事は息が詰まるからあまり一緒になりたくないんだけど。
ラムにもジンとの仕事はあまり回さないでくれと頼んだ筈なのに。もしかしてそれが逆効果だったのかもしれない。余計な事しやがって。後でひたすら文句を言ってやる。

用件を伝え終わって満足したのか、挨拶も碌にせずジンの車が走り去って行く。
せめて何か言ってから帰れよ。ほんといけ好かない男だ。

この状況をベルモットが見ていたら面白そうに笑うだろう。
他人事だと思って。ベルモットの事は嫌いじゃないけど、人の心を弄ぶところは気に食わない。僕はベルモットの玩具じゃないんだからな。

それにしてもやっぱり僕はこの先もジンの事は好きになれないかもしれない。


ああ、明後日なんて来なければ良いのに。