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「バーボンです、よろしくお願いします」

組織の上層部の人間らしいと噂で聞いたコードネームとの初仕事で初顔合わせの日。
呼び出された場所に迎えば、壁に寄り掛かって煙草を燻らせてる痩身の男が一人。僕を捉える瞳は薄いグリーンを帯びていて、色素の薄い睫毛に縁取られている。

「……」
「あの…? コードネーム、ですよね?」
「ああ……うん…」

僕を見る以外の反応が見られないので、思わずコードネームを確認すれば、男はやはり件の人物だった。なんだか不思議な雰囲気な男、それがコードネームの第一印象だ。


「これがベルモットから受け取った資料です」

車に移動し、助手席にコードネームが座った事を確認すれば、目を通しておいてください、とベルモットからの資料を渡す。エンジンを掛けつつ横目で様子を見れば、めんどくさそうにペラペラと適当に資料を捲っているコードネーム。

「ちゃんと見てくださいよ」
「もう覚えた」
「えっ?」
「要らない」

そう言って資料を僕の膝の上にポイッと投げ捨てるコードネーム。この量を一瞬で覚えたというのか?会ってからずっとめんどくさそうだし、適当な事を言ってるのでは無いだろうか。

──コードネームはちょっとトクベツなのよ。

そういえば、資料を渡しに来た時にベルモットがそんな事を言っていた気がする。

「そういえばコードネームって年はいくつなんですか?」
「………」
「結構若そうですよね。僕は29なんですけど」
「さぁ……覚えてない」
「えぇ、なんですかそれ」
「誕生日がいつかも知らないし」

謎に包まれているコードネームとの仕事に好機などと思っていたが、なかなかどうして難しい人物かもしれない。
必要以上に喋ろうとしないし、何を考えてるのかが分からない。

目的のホテルに辿り着くと、コードネームは颯爽と車から降り、ホテルの中へと消えて行く。
中のホールでは現在、資産家連中によるパーティーの真っ最中だ。勿論その中には取引相手を含め、組織と関わりのある者も多数居る。

車を停め、慌てて後を追いかければ、既に中に入っていたコードネームは数人の資産家に囲まれていた。資料にあった顔も居る。あれは組織に投資しているうちの一人だった筈だ。

相変わらずめんどくさそうなオーラを醸し出したまま、資産家達と話すコードネームに近付いて声を掛ければ、薄いグリーンの瞳が僕を捉える。

「コードネーム、探しましたよ」
「こちらは?」
「バーボン。今日の付き添い」
「はじめまして。お会い出来て光栄です」


△▼△▼△▼△


「大丈夫ですか?」
「話し掛けないで」

パーティーも終わり、目的も無事達成したところで、会場を後にする僕達二人。
助手席に座るコードネームは、シートを少し倒して楽な姿勢を取っていた。

「お酒弱いなら、言ってくれれば良かったのに」
「うるさい」

資産家達に飲まされ続けていたコードネームは、気付いた時には自力で立ち上がれない程にまでなっていた。そんなコードネームを何処かに連れて行こうとしていた男の間に入りコードネームを回収する。余計な事をするなと後で怒られるかもしれないが、連れて行かれた先で何をされるか分かったもんじゃないのに、みすみす見逃せる訳が無い。

煩いと言われたので話し掛ける事はせず黙って車を走らせていると、暫くしてコードネームの規則正しい寝息が聞こえてくる。
組織の人間のくせに随分無防備な事だ。

──お酒は程々にね。
──コードネームはちょっとトクベツなのよ。
──もしコードネームが落ちたら、○○ホテルへ連れて行ってあげてちょうだい。

ベルモットの言葉を思い出す。彼女はこうなる事がはじめから分かっていたのだろうか。だとしたら何故もう少しちゃんと教えてくれなかったのか。


△▼△▼△▼△


「コードネーム、ホテル着きましたよ」
「うぅ……ん……」

声を掛ければ直ぐに目を覚ますものの、酔いは未だ冷めていないようで、痛むらしい頭を抑えている。

「大丈夫ですか? 一人で部屋、戻れます?」
「……無理」
「でしょうねぇ」
「立てない」
「ジンでも呼びますか? 初めて会った僕よりは信用出来るでしょう?」
「いい」
「呼ばなくても?」
「そう。呼ばなくていいし、君でいい」

悪いけど肩貸して。そう言うコードネームに肩と言わず背中でもどうぞ、なんて返せば一瞬悩むような仕草を見せるコードネームだったが、素直に言葉に従ってきた。

コードネームを背負い、告げられた部屋へとやってくれば、物が酷く散乱している。

「凄い散らかりようですね」
「片付け苦手なんだよね」
「はは。どれぐらいホテル暮らししてるんです?」
「さぁ……。もう用は無いだろ。帰っていいよ」

ご苦労様。そう言ってベッドに寝転がり僕に背を向けるコードネーム。
これ以上詮索するなという事だろう。変に突っ込んだ事を聞いて警戒されるのは避けたい。仕方ないのでここは大人しく言うことを聞いて帰る事にするか。

「じゃあ僕は帰ります。また一緒になったらよろしくお願いしますね」

僕の言葉が果たしてコードネームにきちんと届いたかは些か疑問ではあるが、言われた通り部屋を後にして帰路に着くため車へと戻る。
車を出す前にベルモットへ報告をしたついでにコードネームについて尋ねれば、コードネームはハイパータイメジア──超記憶症候群だと教えられた。成程。ベルモットが特別だと言っていた意味がようやく分かった。


そんな、どんな出来事や情報でも、全てを覚えてしまう脳を持つ彼を組織は絶対に手放す事はしないだろう。
だから、今まではジンとベルモットぐらいしか会った事が無かったのだろうか。他の幹部達は名前を知っているだけの認識。ジンと常に行動を共にしているウォッカですらコードネームの事は良く知らないらしい。
これは今後注意深く見ていた方が良さそうだ。

今後、彼に会う事があれば、の話だが。