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※オメガバースパロ


この世界は、男と女の他に第二性と呼ばれる性がもうひとつ存在している。アルファ、ベータ、オメガの三種類。
詳しい説明は省くが、俺はオメガで、目の前に居る目付きの悪い男がアルファで、そんなアルファの男に路地裏の建物の壁際に追いやられて、無理矢理キスをされたという状況が事実で現実だということ。

「抑制剤は」
「飲んでる…」
「今はヒート期間なのか」
「ち、ちが……」

遡る事ちょっと前。
授業が終わり、今日はバイトも無いし本屋でも寄ってから帰るかなぁなんて思って街中を歩いていた時にこの男と正面衝突した。
悲しい事にオメガには発情期なるものが存在する訳だが、今の俺はまだその時じゃない。そう。ちがう筈なんだ。なのに何故。

「や、やだ…!」
「何もしやしない」

そんな事を言う癖に、発情期にオメガが出すフェロモンの匂いに男は反応している。まずい、犯される。頭では分かっているのに震えて足が動かない。怖い。目の前に居る男が人間じゃないようで。ギラギラ光る瞳が怖い。

「参ったな…こいつが」
「何…?」
「いや…」

男は突然、俺の様子を見つつ何処かに電話をかけ始め、少し話してすぐに切った。

「すまないが、俺の仲間がもうすぐ来る。それまで大人しくしていてくれ」
「え…?」

まわさられるのか、俺。

「その状態で、他のアルファに襲われず無事に帰れるか?」
「……」
「送っていってやる。生憎俺は一緒には行けないがな」
「?」
「車の中で犯しても良いなら付き添ってやるが」
「っ! 結構、です!」

どうやら男はだいぶ限界のようだ。斯く言う俺も他人のこと言えなくて。心のどこかで、この人に抱いて欲しい、うなじを噛んで欲しいなんて、思ってしまっている自分がいる。それに目を逸らして、必死に震える身体を抑える。早く鎮まれ。
ヒート期間外にこんな風になるのが初めてで、俺の身体がおかしいのかもしれないと思ったら段々惨めになってくる。なんで俺がオメガなんだ。
怖くて、身体が熱くて、惨めで、苦しくて、堪えていた涙が頬を伝う。

「泣くな」
「泣いて、ない」
「迎えに来る仲間はベータだから安心しろ」
「……」
「お前、名前は何ていう?」
「……なまえ」
「そうか」
「あんたは」
「ん?」
「あんたのなまえ」
「秀一」
「しゅういち」
「ああ」

その時、秀一と名乗る男の携帯が鳴った。電話だったようで二、三言応えて切った男は俺に安心しろと言った。

「仲間が来た。後はそいつに任せるが……これを渡しておこう」

そう言いながら男は徐に紙とペンを取り出し、何かを書いて俺に渡してくる。

「俺の番号だ。何かあれば連絡してこい」
「なんで……」
「気付いて無いのか」
「何、が?」
「お前が突然発情期に入った意味」
「は、」
「まぁ良い。そのうち分かるだろう。──ああジョディ、こっちだ」

男が誰かを呼ぶ。見れば眼鏡を掛けた金髪の綺麗な女の人が慌てた様子でやって来る。あの人がこの男が呼んだという仲間なんだろうか。

「ちょっとシュウ、アナタ、強姦なんかしてないでしょうね!?」
「何もしてないさ」
「なら良いけど。…大丈夫? 歩けるかしら」
「あ…たぶん…」
「歩けないならシュウに車まで運んで貰うけれど」
「勘弁してくれ。割ともう限界なんだ。間近で匂いなんか嗅いだら理性が飛ぶ」
「あら、じゃあアナタはもう離れてて。肩貸しましょうか?」
「お願いします……」

先程男にジョディと呼ばれた女の人は男を適当にあしらい、俺の腕を自分の肩に回し、車すぐそこに停めてあるからと歩き出した。初対面なのに優しい人だ。
車に乗り込んだ所で、男が外からすまなかったななんて謝るからちょっとびっくりした。びっくりして、ちゃんと答えられなかったけど、あの男も実はいい人なのかもしれない。助け呼んでくれたし。

「ほんとに何もされてない?」
「あ…キスだけ…」
「あとで殴っておくわね」

ちょっと笑ってしまった。

身体はまだ熱い。下半身だってむず痒い。あそこであのまま抱かれていたら何かが変わっていたのだろうか。貰ったメモをもう一度見る。

090-××××-×××× 赤井秀一

番号と名前だけが走り書きされたそれをとりあえず財布へと仕舞う。
掛けることも、会うことも無いだろうけど。
そう言えば、突然発情した原因は一体なんだったのか。親に聞けば分かるだろうか。あの人はそのうち分かるって言ってたから、多分原因を知っている。教えてくれなかったのは何故か。

「此処で良かったかしら?」
「えっ? あっ、はい」

考え事をしていたらいつの間にか家に着いていたらしい。ジョディさんにお礼を告げ車から降りる。縁があったらまた会いましょうって言って車を出すジョディさん。走り去ったのを見届けて家へと入るも、力が抜けてそのまま玄関にへたりこんだ。苦しい、熱い。薬を飲みたい。
鞄に入っている筈の薬を探してる途中で俺の意識は途絶えた。
気が付いたら自分の部屋のベッドの上にいた。後々聞いたら、買い物から帰ってきた母に発見され移動してくれたらしい。我が母ながらよくまぁ高校生男子を運べたものだ。


その後、あの男と再会するなんて、その時の俺は露ほども思っていなかった。