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「何をそんなに膨れてるんだ?」
「べつに〜」

コードネームと身体の関係を持つようになってからだいぶ経った。
今日も仕事終わりにそのままホテルへなだれ込み行為に耽った。行為中は女の様に乱れて喘ぐのに、終わってしまえばさっきまでの姿は幻覚だったのではと思う程素っ気無い。
別に素っ気無い事自体は構わないのだが、たまに今みたいに突然不機嫌になる事があるのだ。
身体の相性はそれなりに良い方ではあるから、行為に対する不満では無いとは思うが。

「君、俺に隠してる事あるでしょ」
「ん?」
「俺、人より鼻は利く方なんだよね」
「……なんの事だ?」

コードネームの暗く黒い瞳が俺を捉える。感情をあまり映し出さないその瞳に、まるで全てを見透かされてしまっているのではないかと錯覚する。

「……NOC」
「……」
「スコッチが日本の公安の犬だったって」
「……そのようだな」
「鼠を炙り出せってジンが躍起になってる」
「知っている」
「君は、誰だ?」
「……」
「君も彼の仲間?」
「…いや、俺は、組織のライだ」
「……」

どうやらコードネームは俺を疑っているらしい。ジンに探りを入れろとでも言われたんだろうか。
組織の仕事も気乗りしないような感じであったし、何より他人にあまり関心が無いようだからとたいして危険視していなかったが、そうでも無いようだ。
相変わらずコードネームの暗く黒い感情の読み取れない瞳は俺を捉えたままだ。

「……バーボン」
「……」
「彼も疑われてるって知ってる? スコッチと随分仲良かったようだしね。俺は面識無いけど」
「お前は、俺を疑っているのか?」
「さぁ。疑えと言われたから聞いただけ。でも、人より鼻が利くのはほんとだよ」
「……そうか」
「俺は君が何者でもどうでも良いし関係無いけど、ジン達からしたらそうじゃないみたいだから。くれぐれも電話やメールには気を付ける事だね」

そう言ってコードネームは漸く俺から視線を外した。
この感じだと恐らくコードネームは俺の正体に気付いているのだろう。それなのに何も言わないのは何故か。
黙っていたところで何もメリットは無いだろう。それどころか自分自身を危険に晒す行為だ。

「…コードネーム、」
「何?」
「お前は、何を知っている?」
「何をって?」
「何を、何処まで」
「さぁ。どうでも良いでしょ」
「コードネーム」
「しつこいなぁ。何かを知っていたとしても、誰かにチクったりなんかしないよ」

面倒だし。
ぽつりと紡がれた声は本当に面倒そうで。コードネームの性格を如実に表しているようだ。
ベッドから抜け出したコードネームは、床に散乱している自分の服を拾い上げ怠そうに着替えだす。

「君とのセックスはそれなにり好きだし」
「は?」
「ジンよりはマシってこと」

じゃあね、と言ってコードネームはそのまま部屋を後にした。
行為中はそれなりに素直になるコードネームではあるが、それ以外は何を考えているのか分からない男だ。
そんな男が初めて素面で、コードネームにしては素直な言葉を口にした。相変わらず表情は変わってはいなかったが。それが珍しくて、疑われているというのに、そんな事よりも珍しい出来事に意識がいってしまい、思わず笑みが零れた。
いつかは完全に敵に回るというのに、手懐ける前の野良猫の様なコードネームに少なからず良い感情を抱いてしまっているのは、些か問題だろう。



後日、仕事で再び一緒になったが、あの日のような素直さは見事に鳴りを潜めてしまっていた。
相変わらずの無表情え無愛想。まぁ、あまり他人の事は言えないのだが。