×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


そいつは、学生の頃から正義感に満ち溢れた奴だった。
良く笑い、良く泣く奴だった。自分の意見もしっかり言うし、自分に非があれば素直に謝る事が出来る。今時の奴にしては珍しいタイプだと思う。きっととても愛されて、きちんと教育されて育ってきたのだろう。
いつも背筋をピンと伸ばしたようなそいつの生き方はなんだか少し息が詰まりそうなんじゃないかとは思うが、本人は生き生きとしていたからそれがとても眩しかった。
こういう奴が警察に向いてるんだろうなとずっと思っていたが、ある日突然「俺に警察は無理だ」と言ってあっさりと警察学校を辞めた。

あいつの中で何があったのかは知らない。辞めるのも本人の勝手だから、とやかく言うこともしなかった。ゼロは納得して無かったみたいだが。
ただ、ああいうタイプの奴が離れて行くのは存外寂しいもんではある。


組織の潜入捜査を進めていた時、たまたま、ほんとに偶然、そいつと再会した。あの頃と全く変わらない見た目と雰囲気は一発であいつだと見抜くには十分だった。
「久しぶり」「最近どう?」「まぁぼちぼち」なんて、酒を交わしながら他愛も無い話に花を咲かせる。

「そういえば俺、今度結婚するんだ」
「は、」
「皆にも教えといてよ。携帯変えたら連絡先分からなくなったんだよね」
「あ、ああ……。そうか、結婚……」

恋心というのは不思議なもんだと思う。今までそんなもの、全く意識していなかった筈なのに、相手が幸せを掴もうとしているのを知った途端に自覚してしまう。ああ、俺はこいつの事好きだったんだなぁって。
自覚した途端、なんだか気恥ずかしくなってきたが、みょうじは気付いていないようで楽しそうに嫁になる人の話をしている。

「良かったな。幸せになれよ」

そう告げれば目の前の男は幸せそうに笑った。

「結婚式には呼ぶから」
「行けるか分からないぞ」
「えぇ、折角の俺の晴れ舞台だぞ〜?」
「警察は暇じゃ無いんでね」
「それもそうだ。まぁ無理にとは言わないよ」
「行けそうだったらな」
「よろしく。降谷達に伝えとくのも忘れるなよ」

分かった分かったと適当に返事をして軽くあしらう。
店員を呼んで酒を注文し、そういえばと今度は俺が話を変える。

「あの時なんで辞めたんだ?」
「ん?」
「警察は無理だって言って学校辞めただろ」
「あぁ、あれね」

ただ単に俺には向いてないって思っただけだよ、なんて軽く話すみょうじはその後、別の大学に入り直し、今では弁護士だと言う。確かに身体を使うよりは頭を使う方がこいつには向いてるだろう。

「皆と別れる事になったのはまぁ寂しかったけど、後悔はしてないし」
「そうか」
「で、お前は? なんで髭? イメチェン?」

潜入捜査の事は話せないから、まぁそんなところだと適当に誤魔化す。「仕事で必要でな」「ふぅん」聞いてきた割には気の抜けた返事。

「ま、俺の結婚式に参加するまでは無茶すんなよな!」

その後また他愛の無い話で盛り上がり、みょうじがそろそろ帰らなきゃなんて言うからあっさりと解散した。





それが俺とあいつが会った最期の夜になった。

約束、守ってやれなかったなぁ。
結婚式にやって来ない俺にあいつは怒るだろうか。
せめて気持ちだけでも伝えておくべきだったろうか。否。そんな事はしなくて良い。幸せそうなあいつに水を差すような事はしない方が良いに決まってるのだ。


悪いな──────。