※死ネタ
※遺書「おやすみ」 の、追懐
近頃あまり体調のすぐれない双子の兄である燐を気に掛けていた弟、雪男は、その日も早めに仕事を切り上げ帰路についた。
しかし帰宅した彼を待ち構えていたのは、夕食の準備をしていたのか材料が無惨にも散らばるキッチン───そしてその床に倒れ臥す燐という、なんとも残酷な光景で。
雪男はあまりの状況に慌てながらも迅速に燐を抱きかかえると、複雑な事情も理解している祓魔師に通じた医者の許へ急いだ。
そこで雪男が聞かされた現実は、燐の余命はあと僅かである事。
燐は普通の人で無いから、その診断も絶対のものではなく、前代未聞であるが故に判断が難しくあった。
仮説では、本来の父である魔神の力──炎を継いでいるが為、身体がその負荷に蝕まれ堪えきれなくなったのだろうと。
悪魔の治癒力を以てしても、治らない病が存在する現実。
「……ゆきお……?」
病院の簡素なベッドの上で不思議そうに意識を取り戻した燐は、脇にある椅子に雪男が座っているのをみて起き上がろうとする。
「あぁ、無理しないで。起き上がらなくていいから」
雪男は、病による体の怠さからかツラそうに表情を強張らせる燐をやんわりとベッドへ押し戻す。
「……ここ、は?」
「病院。帰ったら兄さんが倒れてて驚いたよ」
少し不服そうに押し戻されながら燐が問うと、雪男は呆れ果てたように溜息を吐き説明した。
「ごめん……でも、何で」
「きっと疲れが溜まってたんだよ、最近あまり寝れてなかったでしょ」
聞かされて漸く、自分でも何が起こったのか何となく理解できてきた燐は、申し訳なさそうにシュンとうなだれるがしかし、どうして倒れるような事態に陥ったのか納得がいかないらしい。
前もって燐の生命があと僅かだろうと聞かされていた雪男は、けれどその事実を受け入れるのが嫌で。
結局は、首を傾げ続ける燐に何も伝えられないまま翌日を迎え、もう手の施し様は存在しないからと複雑な顔をする医者に見送られながら、未だ不思議そうな顔をする燐を連れ病院を後にした。
秘密の海
(残された時間が僅かだと)
(どうやって伝えろと)
(──云うのだろうか?)
Title by.joy