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携帯に表示された文字に、ほくそ笑んだ。
「あ、り、が、と、う…来週手術です、っと」
慣れた手つきで薄っぺらい言葉を打ち込んだ。
メールの相手の中で私は、お母さんが難病の可哀想な彼女、という設定になっている。
まあ、お母さんなんてもう既にいなくなってるし、真っ赤な嘘なんだけど。
「じゃあ手術が終わったら結婚しよう、かー」
私のことを微塵も疑わず返ってきたメールに、私は思わず笑いが漏れた。
来週、手術が失敗して精神が崩壊したってことにして追い払おう。ここは演技派な私の見せ所かしら。
これで、今年5人目。
今回は結婚を急いでいる中年のおじさん。
こんな親の病気なんて古い手に引っかかってくれるあたり、単純でいい人だなあ。
でもそろそろお暇。
次の鴨、探さなきゃ。
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