あの日、私は足の自由を失った。



でも、その代わりに私は先生を手に入れた。





「…っ愛羅、いつになったらお前の傷は癒えるんだっ…」

「一生、癒えませんよ。だって私、死ぬまで歩けないんですよ?」




それは数日前、階段の踊り場で起こった。




「せーんせ」

「…また、お前か」

「やだなぁ、そんな顔しないで?」

「つきまとわないでくれないか、お前も全うな学校生活を…」

「あはは、うそくさいよ」

「…っ触るな!」





私はいつも先生にまとわりついていた。
表では、“勉強熱心な生徒”として。…裏では、“ストーカー”みたいに、ね。
だから、彼も我慢ならなかったんだろう。先生の腕を掴んだ私の手を大きくはらった。
私はその衝撃で、階段から落ちたのだ。



…なーんてね。自分から落ちたの。



そうすれば、先生は私のモノになると思ったから。予想通り、私の足は動かなくなった。当たり前よね。わざと強く打ち付けてあげたんだもの。
もちろん、先生だって少しは疑われたけど、先生は信頼されていたし、私が弁解したから疑いは晴れた。

親も、学校も、友人も悲しんだわ。
私は陸上部のエースだったから。インターハイを間近に、周りから期待されていた時期だったし。
でも、正直、そんなことどうでも良かったのよ。陸上だって、先生が褒めてくれたからやっていただけだもの。思い入れなんてほとんどないわ。

…でも、やっていて良かったかもしれないわね。彼を束縛するいい足枷になってくれているんだから。

私は、罪悪感と恐怖で先生を縛り付けている。
私の人生を暗くし、将来有望な期待の星をだめにした罪悪感、それを知られたときの周りの目と落胆への恐怖。

こうでもしなきゃ、先生を手に入れられないと思ったから。先生は既婚だし、何より彼は私のことを嫌いだもの。
でも好かれたいわけじゃないし、彼と奥さんを破局させたい訳じゃない。
私は今の状況がたまらなく好きだ。

「せんせ、私、もう走れないんです。」

彼が、揺れる。
ああ、その罪悪感に溺れた瞳がたまらない。

「…もうすぐ、インターハイだったのに」

私は軽く歯を食いしばってみせた。
まるで、本当に悲しんでいるみたいでしょう?私、先生を縛り付けるためならなんだってするもの。嘘、うそ、ウソ。

「だから、一生かけて私の傷を癒してくださいよ」

もっと、もっと悲しめ。もっともっと私のことを嫌って構わないわ。
先生の悲しむ顔や嫌そうな顔を見るとゾクゾクするの。気持ちよくってたまらない。

「…ごめん」

それは私に向けて?…それとも何も知らない奥さんに向けて?
別に、どっちだっていいわ。先生が私のものだってことは変わらないんだから。


「宇黎、また早くなったんじゃないか?」


「はは、宇黎は勉強熱心だな」


「宇黎、少し手伝ってくれないか」



「…愛してるよ、先生」








ひそうなんて戯言、
(幸せと言ったら嘘になる)
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