「ん…っあ、」
躊躇いがちに彼女の唇から吐息にも似た音が漏れる。
見下ろせば、シーツの隙間から紅潮させた頬が覗いた。
だけどその表情は見えない。
―ねぇ、今どんな顔してるの?
そっと白い背中に舌を這わすと、くぐもった溜め息と共に堪えきれず君は弓なりに反った。
「はぁっ…」
「キレイだよ…なまえちゃん。」
すると僕に組み敷かれている身体を捩り、君はこちらを向こうとする。
「だーめ。そのまま。」
動けない様に体重をかけると、君は観念した様に首だけ捻り、こちらを見上げる。
その妖艶な表情に息を呑んだ。
目を逸らせない僕の心を読み取ったかの様に妖しく微笑む。
「余裕だね。」
「未来く、」
ぐっと腰を抑えると、なまえちゃんのナカを強く貫いた。
「きゃあぁっ、ん…っ」
矯声を上げる彼女に醜い独占欲を満たされながら、ただ欲望のままに腰を打ち付けてゆく。
もっと。
もっと、
もっと。
叫んで、乱れて、見失って。
僕の事しか見えなくなればいい。
そして、彼の事なんて忘れちゃえばいいんだ。
「ねぇ、なまえちゃんはさ、遼くんのどこが好きなの?」
隣に横たわる彼女に、何て事でもない風を装いながら聞いてみる。
そんな演技は、得意。
シーツから半分だけ顔を出した君は、不安そうに目を泳がせた。
あどけない仕草と何も乗せていない素顔がまるで少女の様で、先程までの淫らな行為とのギャップに頭がくらくらする。
「…わからないんだ。」
「廣瀬さんの事、よく知ってるわけじゃないし…
どれが、本当の廣瀬さんなのかもわからないし、」
悲しそうな声にこちらまで胸が苦しくなるみたいだった。
「だけど、時々遠い目をするの。
悲しいとか、寂しいとか、言葉には表せない様な…切なさを湛えた色。
何だか気になって、…もっと、知りたいなって思うんだ。」
そう言って君は柔らかく笑う。
切なさを、湛えた色で。
そんな無理して笑う事ないのに。
僕の前でまで、取り繕う必要なんてないのに。
そっとその柔らかな細い身体を抱きしめた。
「未来くん―?」
じっと動かず、僕の腕の中にいてくれる事が嬉しい。
「ね、未来くんは優しいね。」
安心した様に君が目を閉じて僕に身体を預ける。
どうして。
どうして、君が好きなのは僕じゃないんだろう。
こんなにそばにいるのに。
どうして、僕が好きなのは君なんだろう。
こんなに遠いのに。
ギュッとなまえちゃんを抱く腕に力を込める。
だけど僕は、遼くんを好きななまえちゃんを好きになった。
遼くんを見つめるその瞳が寂しそうで、悲しそうで、切なくて。
君を支えてあげたいって思ったんだ。
案外僕ら、似た者同士なのかもしれないね?
腕の中からは、すぅすぅと小さな寝息。
少し尖った唇が、堪らなく可愛い。
そっと起こさない様に髪を撫でて、額にキスをする。
あとどのくらい、こんな夜を過ごせるのだろう。
こうして君を抱き締めるのが、他の誰かの腕になるのはいつだろう。
「なまえちゃん…」
聞かれない様にそっと、そっと小さな声で呟いてみた。
僕の中に積もっていく想いを。
君が彼に言えないでいる言葉を。
君を胸に抱いて
遥かなる刹那を願う
(好きだよ)