「皆さん、初めまして…僕は忘れられた語り部≠フ廻。
今は武巳の友達です。
さて、僕は全ての物語を見聞きして、語ってきた。
今回は武巳と二人で噂の無人の村に行った話を語りましょう。
それはそれは、切なく悲しい話を」
――――
僕と武巳は羽間市の隅に在った、今は地図から消された無人の村にいた。
「廻、噂の村は此処か?」
「ああ、此処ですね」
「じゃあ、あの噂は…」
「本当だよ、此処は神隠しが起きるよ」
僕は昔からこの村を知っていた。
『二人の兄弟が、この山の中で行方不明になった。
時が経ち、兄は目隠しされたまま見付かった。
けれど、弟は見付からなかった。』
「本当だったんだ…」
「僕は見るだけですから」
「な、何の話だよ…」
「僕は、この村を知っているんです、ただし…」
「……」
僕は一瞬、言葉を溜め…言う
「出来た頃から」
風が僕たちの間を通り抜ける。
歓迎していないような吹き抜け方だった。
武巳は言う。
「う、嘘だろう…」
しかし、僕は首を横に振り、言った。
「前にも言ったけど、僕は忘れられた語り部≠セよ…全ての物語を見聞きした異界の住人、物語を記録し語る元$l間だよ」
「……」
「この村の人たちは、全員異界に神隠しされています」
武巳は僕の話を聞いて、愕然とする。
「そんな村に一人だけ、神隠しに遭わなかった子供がいました…その子供は一人で何十年もの間、村で生き続けました」
「……そ、その子供は?」
「今から二十年前に、異界に神隠しされ、行方不明でした」
僕は淡々と言う。
「幾年が過ぎた頃に、消えた子供は異界から帰還しました…けれど、得た力と引き換えに村は地図から消されました」
「……そ、それはまさか…!」
「ええ、僕ですよ…」
「……っ」
「どうして、僕だけが帰れたのかな…」
僕は村の中心に在る小屋に向かう。
「この小屋が僕の…家でした」
一人生き残った言葉は、何十年もの間、どんな想いで過ごしてきたのか。
地図から消された故郷に帰ってきて、何を想ったのか。
「皆と死にたかった…」
「……廻、おれがいるから…側にいるから…っ」
異界の全てを知る者は、物語に介入してはならない。
忘れられた語り部≠ヘ、慟哭し自分の人生に嘆き、悲しむ。
「武巳…僕は…村の皆に何をすればいいのかな…」
「村の皆の分まで、今を感じて生きればいいさ」
「ありがとう、武巳」
一緒に泣いてくれる友達を、僕は得た。
――――
どうでしたか、無人の村の最後の生き残りの話は。
忘れられた語り部≠ェ語る、過去の話。
全てを知ってなお、物語に介入する事は出来ない。
異界のお気に入りを物語に介入させたくない世界の意思に基づくから。
人から忘れられた、運命の語り部=B
次は、どんな物語を語るのか。
次回のお楽しみに。
無人の村
100808
……………………………
*後書きと云う名の反省*
切なくなっていますか?
企画に参加させていただいています
他のもやります