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 獣の本懐


「見つけたぜ!」

その言葉と共に、その巨体が真上から突っ込んで来た。
周はそれを瞬歩で避けると、地面が揺れる程の衝撃と爆発音が轟いた。
まるで雷が落ちたような衝撃。
土煙の向こうに二メートルの巨体が姿を表し、周は僅かに目を細める。
ちりん、と涼しげな鈴の音が鳴った。
大股で煙の向こうから出てきたのは、十一番隊隊長、更木剣八。

「こんにちは、更木隊長」

いつもと変わらない挨拶を口にする周に、更木は肩に斬魄刀を担いだまま、「はっ」と短く笑った。

「一発で辿り着くとは運が良いぜ。俺の勘も捨てたもんじゃねぇな」
「見つけた、と仰いましたが、どなたをお探しですか?此処にはどなたもおられませんよ」
「しらばっくれんな、てめぇを探しに此処へ来た」

更木が此処へ突っ込んで来る前、確かに周を見て"見つけた"と言った。
それを分かっていても敢えて聞いたのは、念の為だ。
更木の霊圧探知能力が壊滅的だと言うのは周知のこと。

「何のご用でしょうか、更木隊長」
「用?んなもん一つしかねぇ。戦いだ」

肩に担いでいた斬魄刀の切先を、周に向ける。
あちこち刃こぼれした刀身が鈍く光った。
しかし周は、変わらず微笑んだまま更木を見返す。

「私とですか?」
「前からてめぇとやり合いてぇと思ってたんだ。良い機会だろ」

霊骸による反乱。
それに乗じて己の欲を満たそうと此処へ来た。
更木にとって、目の前の周が原種か霊骸かと言うのはどうでも良いことだった。
それは、周も同じ。
だから互いにそれを聞くことはしないし、探るつもりもない。

「しのごの言ってねぇで始めようぜ!」

獣のように突進してきた更木が、刀を振りかぶる。
周は素早く抜刀すると、その刃を斬魄刀で受け止めた。
どう、と衝撃波が二人を中心に広がり、周囲の壁が吹き飛んだ。
約五十センチの身長差と体格差は、まるで大人と子供のように見える。

「何故、私なのですか」

周の問いに、更木がにやりと笑う。
口から覗く犬歯が、その刀と同じようにぎらりと光った。

「同郷のよしみってやつだ。あそこにいた奴なんて此処では俺とてめぇだけだろ」

同郷――その言葉に、周の指先が微かに動いた。
あそこをふるさとと言うのは些か抵抗があるが、それ以外の言葉を知らない。
更木の言う通り、現在瀞霊廷に存在する魂魄の中で、北八十地区から来たのは周と更木の二人だけだった。

再び交差する刃から、火花が散る。
ぼろぼろに刃こぼれした刀身と、刃こぼれ等一つもなく研ぎ澄まされたすらりとした刀身は、二人の姿そのものに見えた。

「そう言ったことを気にされるとは、意外ですね」

どこの誰だろうが、関係ない。
強いかどうか、唯それだけ。
更木はそう言う男だと思っていた。

「同じ穴の狢だろ」

何でもないように言われて、周は少し驚く。
そんな言葉を、更木が知っていることが意外だったからだ。
しかしその言葉の意味を考えて、柄にもなく笑いが込み上げてきて、「ふふ」と零した。

「貴方と私が?」

振り上げられた刀を周は飛び上がって避け、そのままその巨体を斬りつけようと刀を振るうが、更木の刀が受け止める。
一緒に打ち込まれた霊圧が、更木の髪先の鈴を鳴らした。
銀の刃の向こうで、更木が口角を上げる。

「思った通り、これまで戦った何奴より、てめぇは俺と似てるぜ」
「!」

ぴしっと音を立てて、周の斬魄刀の刀身にひびが入った。
その途端、更木の刀が一閃する。

「…っ」

砕けた刀身と一緒に、鮮血が散った。
肩から胸にかけて、死覇装から覗いた真っ白な肌が赤く染まっている。
普段から霊圧を肌の上に纏わせ鎧の役割をしている為に、この程度で済んだのだ。


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