雪解け(本編壱) | ナノ
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 17 光はいつも僕に眩しく


「おい」
「はい」
「お前…どうかしたのか?」
「呼んだのは貴方でしょう」
「そうじゃねぇよ、何かあったのかって聞いてんだ」
「……貴方がそういうことを聞くのは珍しいですね。熱でもあるのですか」

いらいらする程にっこり笑い、わざわざ人の神経を逆撫でするようなことを平気で口にする目の前の女に、隠しもせず舌を打つ。
確かに此処に呼んだのは自分で、彼女の義骸の調整の為だ。
しかし、先程の問いは、何故此処に来たのか等と馬鹿けたものではない。

「だから、何かあったのかって聞いてんだ。相変わらず口の減らねぇ奴だなお前は」

態と睨みを利かせて言っても、目の前の女は相変わらず笑っている。
彼女の言う通り、自分がこんなことを聞くことは珍しい、というか、まずないことだ。
他人に何があって何を思っているなんてことに、全くもって興味がない。
唯、聞いたのは、彼女の様子が以前と変わったように見えたから。

「相変わらず口が悪い人ですね、貴方は」

彼女とは、所謂幼馴染というやつだ。
これは全くもって不本意なことであり、それは互いに思っていることだろう。
幼い彼女を流魂街で拾った前十番隊隊長が、これまた幼い自分を蛆虫の巣から拾った前十二番隊隊長兼初代技術開発局長と、友人だった。
その為、前十番隊隊長と幼い彼女が此処へくることはしょっちゅうだった。
年が同じ頃だからとそれだけの理由で、彼女と同じ部屋に入れられ、よく保護者共は縁側で酒を飲んでいた。
初めて会った時からいつも馬鹿みたい笑っていて、減らず口とくるものだから、怒鳴り散らしてぶん殴ってやろうかと思ったのは数知らず。
だが生憎、女に手を挙げる趣味はない。

出会った頃には既に彼女は死神をしていて、俺は幼い頃から技局で働いていた。
成長していくうちに此処から滅多に出なくなり、彼女に会うことも減った。
先代が彼女の検査をしているのは知っていたが、知っていただけだ。
彼女のことを久々に思い出したのは、百年以上前、前十番隊隊長が殉職したと聞いた時。
それも、虚に取り付かれた前十番隊隊長を彼女自ら斬ったと聞いて、珍しく手元を狂わせ実験体を無駄にしたのを覚えている。
それから数日後の隊葬で、何年ぶりかに会った彼女は、幼い頃と変わらず笑っていた。
馬鹿の一つ覚えのように、胸糞悪くなる程、彼女は笑っていた。
いっそ泣いて喚いて、どうにかなってしまえば良いのに、彼女はずっと、うんざりする程、笑っていた。

それから百年以上、義骸や虚の情報等、隊の用事以外にも、実験の為に此処に来たり、引き継いだ検査の為に彼女を呼び出したりしたが、特に何を話すこともなかった。
前十番隊隊長のことも、彼女は一言も口にしなかった。
外から誰かが持ってくる情報で、彼女が百年以上隊長不在の十番隊で三席に就いていることを知っていたし、その後松本と言う女が副官に就いたのも知っていた。
そして昨年、長い間空席だった隊長の席に、日番谷という少年が就いたのも知っていた――知っていただけ。

そして半年ぶりに彼女が此処に来たと思えば、今までに見たことのない顔をしている。
あの胡散臭い笑みは同じだったが、何か違う。
それが何と言うのかは、知らないし、分からない。
それを知る術を自分は持ち合わせていないし、知りたいとも思わない。
それでも聞いたのは、多分、何日も寝ていない所為で、きっとどうかしていたのかもしれない。

「――上官に、説教をされました。説教をされて、本当のことを、言い当てられて、驚いただけです」
「……そうかよ」
「貴方から聞いてきたくせに、何ですかその興味なさそうな返事は」
「うるせぇな。おら、入れ。俺は忙しいんだ」

大きな箱型の機械に押し込むと、彼女が小さく笑った気がした。

「珍しいこともあるもんだな」

彼女が来てすぐに思ったが、改めて測定した数値を見て驚く。
ここ百年以上、そのままか減るかしかなかった彼女の体重が、増えていた。

「お前の義骸を作るのにどれだけ手間がかかってると思ってんだ」
「すみません」
「特にお前の顔は、その中でも目元は、俺が三日三晩寝ずに仕上げた力作だぞ」
「それはご苦労様です」
「こっちの苦労も知らねぇで、しょっちゅう痩せては太ってとされたら、こっちはたまったもんじゃねぇ」
「でも楽しいのでしょう」

文字盤を叩いている手を止めて顔を上げれば、箱越しに彼女が笑っている。
まったく、むかつく奴だ。

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