雪解け(本編壱) | ナノ
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 14 君が僕のすべてになる前に


「周じゃないか!」

書類配達を終え、最後にやって来た十三番隊で雨乾堂を訪ねれば、浮竹隊長は顔をぱっと明るくさせた。
この百年、管理権限のある書類を配達に来ても雨乾堂を訪ねることをしなかった。

「こんにちは、浮竹隊長」

お見舞いのおはぎを渡すと、一緒に食べようと、隊士にお茶の準備を頼む。

「お加減は宜しいのですか」
「ああ、今日は随分調子が良いんだ」

浮竹隊長とまともに話すのはどれくらいぶりだろうか。
ずっと心配をしてくれていたことは、彼から聞いた。
前隊長は浮竹隊長とも親交があり、幼い私は前隊長に連れられて此処に何度も来たことがある。
その度に、嬉しそうに招き入れてくれたことを覚えている。

お茶とおはぎを運んで来た隊士にお礼を言い、湯飲みに口を付ける。

「ああ、そういえば、周は甘いものが苦手だったな」

甘い羽衣を飲んで思い出したのか、彼が申し訳なさそうに眉を下げる。

「いいえ、此処で頂くお茶やお菓子は昔から好きです」

本心だった。
彼は幼い私をとても可愛がってくれて、出されたお茶やお菓子を私が食べると、嬉しそうに笑った。
それが嬉しくて、断れば彼が眉を下げることを知っていて、そんな顔をさせたくはなくて、多少苦手でも彼の出してくれたものは何でも食べた。

「先日漸く、隊長のお墓と、あの家の跡地へ行けました」
「そうか」

そう言って、彼は優しく微笑む。
その包み込むような眼差しが、どれだけ彼が心配してくれていたのかが分かる。
何も言わなかったけれど、言わずにいてくれたけれど、彼はずっと気にかけてくれていた。

「やはり日番谷隊長のおかげかな?」
「はい、そうです」

頷けば、彼はまるで知っていたかのように笑った。

「ところで周、決心はもう付いたのかい?」

彼は湯飲みを置いて、こちらに向き直る。

「…いいえ、未だ、そこまでは」
「そうだろうな…死神になってからずっと十番隊で、君の場合はまた事情が特別だ」

死神を知ったのも十番隊、死神になって初めて配属されたのも十番隊、それからずっと、本当に私には十番隊しかなかった。

「でも、俺はその事情を除いて、君を一人の死神として、十三番隊に必要な存在だと思い指名したんだ」
「はい、ありがとうございます」
「よく考えなさい」
「はい」

彼は、こうしろだとか、ああした方が良いだとか、そんなことは一言も言わなかった。
百年以上前と変わらず、彼は今でも、優しい眼差しで私を見てくれる。

「周、自分の気持ちに素直でいなさい。君が一番居たい場所を選べば良い」
「はい」

彼の傍で飲んだお茶も、食べたおはぎも、優しい味がして。
彼の言葉に、目頭が熱くなった。

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