雪解け(本編壱) | ナノ
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 11 君と繋がる糸が欲しい


「隊長達、まだくっついてないんですか?」
「…うるせぇ」
「え〜どうしてです?このまま付き合っちゃえば良いのに。絶対付き合ってると思ってあの子に聞いたら、そんなわけないでしょうって言われちゃいましたよ」

松本の言葉が、意外にも深く胸に刺さる。
余計なことを聞くなと言いたいところだが、口から出てこない。
そんなわけないという彼女の言葉がこうも自分に傷を与えるとは。

「あれ、もしかして凹んでますぅ?」
「…うるせぇ」
「隊長は押しが足りないんですよ!女はちょっと強引な方が好きなんですよ。もっと押せば周もきっと…何ですか?」
「いや…まるで俺達がそうなるのを望んでるみたいな言い方だな」
「望んでますよ?」

当たり前のようにけろりと答えた松本に、思わず言葉につまる。

「だって、あの子には隊長しかいませんから」

と、にっこり笑った松本に、やはり言葉を失った。

あの夜から一週間経って、彼女は今日退院し、明日から出勤することになっている。
あれから三日と続けて松本と見舞いに行き、彼女の何かが変わってきたように思う。
それが何かは、分からないが。
いつものように笑っているが、今までの張り付けたようなものとは少し違う気がして。
入院食も少しずつ食べられるようになり、痩せていた身体は、以前のように戻りつつある。
四番隊の隊士によれば、胃炎も完治に向かっているそうだ。

あの夜、子供の様に声を上げて泣いて、前隊長に会いたいと吐いて、泣いて、泣いて、泣き疲れてそのまま眠った彼女。
彼女が眠るのを待っていたかのように雨が降り出し、この季節には珍しく、一晩中降り続いた。
彼女の寝顔を見て、まるで雨の音に誘われるように、不覚にも俺まで眠ってしまった。
優しく触れられる感覚に目を覚ませば、彼女が自身の髪を梳いていて。
それが驚く程心地良く、目を開けずにいれば、頬に雫が落ちてきた。
また彼女は泣いていたのだろう。
前隊長を想って、また。
雨はもう、止んでいた。

自分を救った人を自らの手で殺めることになり、生きる理由の全てだった人を失った彼女。
罪を背負うことで、赦さないことを生きる理由にしてきた彼女。
贖罪を終わらせたとしたら、彼女は何を生きる理由にするのだろう。
皆が生きる理由を明確に持っているわけではない。
生きる理由を探すことを生きる理由にしている者もいれば、生きる理由等なくても良いと思っている者もいるだろう。
彼女の場合、前隊長との出会いが特別だったのだ。
何かに縋って生きることは、良いこととは言えない。
それでも、それで彼女が生きていけるならば、それで良いとさえ思う。
彼女に生きていて欲しい。
何に縋っても良い、死ではなく、生きることを望んで欲しい。
自分が思っている以上に、自分の彼女への気持ちは強いものらしい。
あれから彼女とあの夜の話しをしていないが、恐らく良い方向に向かっていると思う。
そう思いたい。

その夜、一時間程の残業を終え隊舎を出たところで、知った霊圧を感じて反射的に振り返れば、死覇装姿の彼女が立っていた。
影になって表情は見えないが、代わりに銀髪がふわりと風に踊った。
驚いて、どうしたのかと問えば、

「一緒に、行っていただきたい所があります」
 
そう言った彼女の顔が、月光に当たる。
その唇は、きゅっと結ばれていた。

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