雪解け(本編壱) | ナノ
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 06 君を救う言葉が欲しい


明日の非番は祖母のところに行くつもりで、その際、浮竹に貰った菓子を手土産に持って行こうと思っていた。
それを執務室の棚に置いていたのを忘れて帰り、取りに行こうと部屋を出れば、予想以上に寒かった。
さくさくと、歩く度に鳴る枯葉が、まるで絨毯のようだ。
直に冬が来る。
寒いのは得意だ。
平気と言うわけではないが、暑い夏よりは冬の方がずっと活動し易い。

「寒いのも、冷たいのも、嫌いです」

今日は彼女が夜番だ。
先日言い争いをしたが、その後も普通に接している。
気まずいだとか、恐らくそんな感情は互いにない。

指示したわけではないが、結局松本から彼女に頼んだことにより、彼女は新規採用の書類選考に加わることを了承した。
松本なりに隊のことや彼女のことを案じているのは、伝わっているし、分かっている。
分かっているから、全てを強制しきれない。
それを本人も分かっているものだから、全くあいつは質が悪い。

彼女があれほど否定する理由が分からない。
元より、彼女の思考は松本と同じ程読めない。
読めたところでどうしようもないことだが。
自身が若年と言うこともあるが、人より人間関係の経験が浅いと思う。
それは恐らく、自身が成人であっても、同じことだとは思う。

人の思考を推量することはある。
幼い頃からしてきたことで、自然に身に付いたことだった。
唯、いつしかそれは仕事上以外でしようとは思わなくなった。
必要がないことだと思ったからだ。
人の思考を推量して、良い方向に転がった試しがない。
それは自身の性格故なのかもしれないが、その推量が大きく違っていたとも思えない。

同じように、彼女の思考を推量しようとは思わない。
しかし、知りたいとは思う。
それは、推量とは少し違う気がして。
もしかしたら、また悪い方向に転がるかもしれない。
けれど、それでも知りたいと思う。
それが何故かは分からない。
恐らく、人間関係の経験が浅い為に分からないのだと思う。

「日番谷隊長、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ」

執務室へ直行したが、彼女の姿はない。
灯りはついていて、書類も片付いている。
何だ――?
気になって周囲の霊圧を探れば、すぐ近くに僅かに感じた。
副官室だった。
普段松本は執務室に席を置いていて、副官室は殆ど使われていない。

副官室の扉を開ければ、彼女は窓際に立っていた。
書類の束を片手に、その横顔は、葡萄色は、窓の方へ向けられていて。
彼女の顔に、いつもの笑みはなかった。
常時緩やかな弧を描いている唇が、薄く開いていた。

「―――!」

ああ、こう言うことか。
先日、檜佐木の言っていた言葉。

「周さん、なんか――すぐどっかいなくなっちまいそうで」

あの時はいまいち理解出来なかったが、今、漸く分かった。

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