雪解け(本編壱) | ナノ
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 05 今でもあなたの最期が見える


彼が隊長に就任して数か月、私の生活が大きく変わった。
今まで乱菊さんと二人で決断を下していたことを、彼が決断するようになった。
乱菊さんに仰いでいた指示を、彼に仰ぐようになった。
担当していた執務が大幅に減った。
それにより残業は減り、早く帰宅出来るようになった。
人員が増えただけと言うものではない、全ては彼の能力の高さ故だ。

乱菊さんとの相性も良く、とても頼もしい。
一見正反対に見えて、実は馬が合っている。
最初はどうなることかと思ったけれど、絶妙な均衡で成り立っている。
彼は既に十番隊に慣れていて、若年であることも、経験の浅さも、霞んでしまう程だ。
隊が通常に、他隊と同じように通常に機能している。

十番隊が、少しずつ変わりつつある。
元々隊士達は真面目だったけれど、やはり隊長がいると覇気が違う。
隊長がいて、副隊長がいて、これが本来の隊の形なのだから、当たり前なのだろう。
彼は、隊士達に非常に慕われている。
十番隊が、彼の色に染まって行く。

唯、私はまだ慣れることが出来なくて。
慣れようとしていないのかもしれない。
抗う程の力はないけれど、慣れないと言う小さな抵抗をしているのかもしれない。
抵抗する権利なんて、私にはないと思うけれど。

「荻野三席?」
「、…はい」

我に返れば、五席が心配そうな表情で私を見下ろしていた。

「大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
「大丈夫です、すみません」

呆けていることが多くなった。
集中力が低くなっている。
これではいけない、このままではいけない。

「予定通り、四席と六席の部隊と演習を行いましょう」
「はい」

執務の時間が減ったと言うことは、必然的に鍛錬の時間も多く取れるようになった。
彼のいる執務室に滞在する時間が減ると思うと、胃の辺りが少し軽くなる気がする。

心も身体も付いて行けないのか、最近身体がおかしい。
食欲がない。
元々あまり食べるほうではないけれど、空腹は感じていた。
今は、身体が受け付けようとしない。
まるで、身体が生きることを拒絶しているかのようだ。

彼が現れる前までは、こんなことはなかった。
何も変わることなく、毎日が過ぎていったのに。
何もなかったのに。
彼が悪いわけではない、悪いのは、愚かなのは私だ。
それなのに、私はどうしても、分からなくなってしまう。

百年以上変わらなかったことが、変わっていく。
変わりたいのか、変わりたくないのか、分からないけれど、それでも彼は、あっという間に変えていく。
私にはついていけない。
やっぱり、また、世界は私を置いて行く。

寒いのも、冷たいのも、嫌いだ。

「たいちょうのて、あったかいです」
「そうだろ?霊圧のおかげか、俺はいつも温かいんだ」


いつまでも過去に捕らわれている自身が、酷く幼くて、情けない。

「馬鹿みたい」

それでも結局、私には、此処しかなくて。
馬鹿馬鹿しくて、笑ってしまう。

「寒くないか?」
「はい、あったかいです」


いつも曇っているように暗かったあの場所で、あの人は太陽のように見えた。
あの人がいなくなって、多分、私の世界に太陽が無くなって。
それで、多分、こんなにも寒いんだ。
真っ暗で、寒くて、寂しくて、冷たくて。

「わたしも、しにがみになりたい」
「なれるさ、お前には霊力がある」


十番隊で育ち、学んだ私にとって、十番隊が全てで。
あの人は、いなくなってしまったけれど。
でも、私には、此処しかない。
あの人が大切にしていたもの。
あの人の世界。
私に与えてくれた、あの人の大切なもの。
守るだとか、そんな格好の良いものじゃない。
私には、他に何もないから。
あの人から何もかもを奪った私に、何もないのは当然で。
私には何もなくて、私には此処しかない。
私が今まで、今生きているのは、生きていられるのは、此処があるから。
十番隊がなくては、私はきっと、生きていけない。

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