十の文字は、あの人の数字だった。
千歳緑は、あの人の色だった。
「十番隊隊長に就任する」
隊長と呼べるのは、あの人だけだった。
私にとって、私にとっては、全部。
あの人が、全てだった。
「日番谷冬獅郎だ」
何度も何度も同じ季節が巡って、数え切れない程の時間が過ぎて、あれから百年以上が経った。
長い間空席だった隊長の席に史上最年少で就任したのは、銀色の髪に翡翠色の瞳を持つ少年だった。
彼のことを見付けてきたのは、乱菊さんだ。
数十年前、流魂街ですごい子を見付けたと、珍しく真面目に言っていたのを覚えている。
その時は、そうですかと唯受け流しただけだったけれど。
「あんたと似てる子、綺麗な子」
そう言って、また珍しく眉を下げて笑うものだから、鮮明に覚えている。
「第三席に就いています、荻野周と申します」
冷たくて、綺麗で、繊細で、まるで、氷のような。
寒いのも、冷たいのも、嫌い。
「ああ、宜しく頼む」
鮮烈な印象を与えながら、同時に儚さを感じさせる、不思議な少年。
凍えるような夜空に、孤高に浮かぶ氷輪のような。
その背後には、何処までも続く氷原が見えた気がした。
淡い色彩の中で目を引くのは、否、惹きつけられるのは、翡翠の瞳。
まるで濁りのない氷のように澄んでいて、穢れを知らない美しさ。
真っ直ぐにこちらを射るような眼差しは力強く、何もかも見透かしたように鋭くて。
その強い瞳に、思わず目を逸らす。
胸の奥の奥の何かが、動いた気がした。
何を言われるのか、何を見られるのか、怖い。
――ああ、苦手だ。
「宜しくお願い致します」
只管に白く、只管に真っ直ぐで、只管に真実で、只管に純粋で、只管に高潔で、唯只管に。
彼の銀髪が、窓から差し込む陽光にきらりと反射して、思わず目を細めた。
私には、眩しすぎて、見ていられない。
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