雪解け(本編壱) | ナノ
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 01 呼吸を止めても世界は廻る


十の文字は、あの人の数字だった。
千歳緑は、あの人の色だった。

「十番隊隊長に就任する」

隊長と呼べるのは、あの人だけだった。
私にとって、私にとっては、全部。
あの人が、全てだった。

「日番谷冬獅郎だ」

何度も何度も同じ季節が巡って、数え切れない程の時間が過ぎて、あれから百年以上が経った。
長い間空席だった隊長の席に史上最年少で就任したのは、銀色の髪に翡翠色の瞳を持つ少年だった。

彼のことを見付けてきたのは、乱菊さんだ。
数十年前、流魂街ですごい子を見付けたと、珍しく真面目に言っていたのを覚えている。
その時は、そうですかと唯受け流しただけだったけれど。

「あんたと似てる子、綺麗な子」

そう言って、また珍しく眉を下げて笑うものだから、鮮明に覚えている。

「第三席に就いています、荻野周と申します」

冷たくて、綺麗で、繊細で、まるで、氷のような。
寒いのも、冷たいのも、嫌い。

「ああ、宜しく頼む」

鮮烈な印象を与えながら、同時に儚さを感じさせる、不思議な少年。
凍えるような夜空に、孤高に浮かぶ氷輪のような。
その背後には、何処までも続く氷原が見えた気がした。
淡い色彩の中で目を引くのは、否、惹きつけられるのは、翡翠の瞳。
まるで濁りのない氷のように澄んでいて、穢れを知らない美しさ。
真っ直ぐにこちらを射るような眼差しは力強く、何もかも見透かしたように鋭くて。
その強い瞳に、思わず目を逸らす。
胸の奥の奥の何かが、動いた気がした。
何を言われるのか、何を見られるのか、怖い。
――ああ、苦手だ。

「宜しくお願い致します」

只管に白く、只管に真っ直ぐで、只管に真実で、只管に純粋で、只管に高潔で、唯只管に。
彼の銀髪が、窓から差し込む陽光にきらりと反射して、思わず目を細めた。
私には、眩しすぎて、見ていられない。

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