雪解け(番外掌編) | ナノ
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幼馴染
「周ねえさま?」

後ろから掛けられた声に、日番谷と周は同時に振り返った。

「周ねえさまではありませんか!」

日番谷と周がその声の主を見つけると、顔をぱあ…!と輝かせる。
そして周が返事をする暇もない程の速さで走ってくると、両手を広げてがばりと周に抱き付いた。

「なっ…!」

突然のことに日番谷は驚く。
そして二人の色彩があまりに対照的で、思わず目を瞬いた。
子供だった。
一つに結った黒髪、褐色の肌、金色の大きな瞳。
背丈は日番谷と周の間辺りで、身に纏っている高価そうな着物と袴から貴族だと想像がつく。
姉?周が?と思ったが、周に親族はいないし、子供の容姿の色彩からその可能性はあり得ないと結論付ける。

「わあ、周ねえさまだぁ!」

ぎゅうぎゅう周に抱き付き、全身で喜びを表現していて、その様子はまるで飼い主との再会を喜ぶ犬のようにも見える。

「ずっと、お会いしたかったです」

そしてその肩が少し震えたかと思うと、驚くことに、「うわあぁん」と声を上げて泣き出した。
周は僅かに目を見開いたが、やがて優しく目を伏せると、そっとその頭を撫でたのだった。

「私の為にお心を砕いていただき、ありがとうございます」

子供が少し落ち着くまで待つと、周は身体をそっと離す。

「ご無沙汰しております」

そして一歩下がり、深く頭を下げると、

「大きくなられましたね」

懐かしそうに微笑んだ。

「周ねえさまこそ!」

人懐こい大きな瞳を潤ませたまま、嬉しそうに周を見る。

「お会いしていない間に、二十三代目を継がれたそうですね。遅くなりましたが、おめでとうございます。御当主さま」

再び頭を下げる周に、子供は少し寂しそうな表情をした。

「昔のように夕四郎と呼んでください。結婚を誓い合った仲ではありませんか、周ねえさま!」
「ちょっと待て」

もう一度抱き付こうとする子供と周の間に、日番谷が手を伸ばして制す。
たった今、この子供はとんでもないことを言った。

「あ!これは失礼しました。僕は四楓院夕四郎と申します。周ねえさまには昔から大変お世話になっております」

ぺこりと頭を下げる姿は、日番谷の知っている四大貴族の当主のそれとは大きく異なる。

「御当主さま、こちら十番隊隊長の日番谷隊長です」
「もう、周ねえさま!夕四郎と呼んでくださいっ」
「待て待て待て!」

再び抱き付こうとする子供、否、少年を制す。

「あ!失礼しました、日番谷冬獅郎さんですね!史上最年少で隊長に就任された天才児の」

何か色々調子が狂う…日番谷は内心ため息を吐いた。
少年が自分の名を口にするまで、日番谷は女だと思っていた。
それ故その再会の様子を微笑ましく見ていたのだが、男となると少し変わってくる。
まだ子供で、純粋に周を慕っているように見えるが、何を誓い合ったと言ったか?

「そんなことより、」
「あ!」

日番谷の言葉を遮り、夕四郎が声を上げる。

「今、何時ですか?」
「もうすぐ正午を回るところです」

伝令神機を見て周が言うと、

「僕早く帰らないと!午後から稽古があるんです!周ねえさま、また屋敷に遊びに来てくださいね!絶対ですよ、ね!ね!」
「あ、おい!」

日番谷が止める間もなくもう一度周に抱き付くと、夕四郎は走って行ってしまった。

「騒がしい奴だな…」
「昔から、天真爛漫なお方でしたから」

溜め息を吐く日番谷に、周が笑う。

「あのお方は、昔稽古をつけていただいていた師匠の弟君です」
「それは分かった。で、何を誓い合ったんだよ?」

日番谷がじとりと睨めば、周は少し驚いた後、可笑しそうに笑う。

「まだあのお方が小さな頃のことですよ。それに、私はご縁があればとは言いましたが誓ってはいません」

子供相手にもそんな風に返したのは周らしいとも言えるが、はっきり断ってはいない。
あの少年がどう言うつもりで、覚えていて言ったのかは知らない。
しかし日番谷にとっては気分の良いものではない。

「ご縁があればするのかよ?」
「まさか」

不機嫌そうに日番谷が問うと、周は「ふふ」と小さく笑う。

「四大貴族の御当主さまと私にご縁等ありません。幼い頃から許嫁がおられますし、貴族の家系に流魂街の血は入れない掟です」

お前のもう一人の幼馴染みはその掟を破っただろう、と日番谷は言いかけたが、それ以上言うと駄々を捏ねているようなのでやめた。

「行くぞ」
「はい」

その代わりに、周の手を取って歩き出す。
半歩先を歩く日番谷の耳は、僅かに赤く染まっていた。
周に母性を求めたことはないが、泣いている夕四郎に向けた母親のそれを思わせるその表情に、不覚にもときめいてしまったのだった。


(主人公は夜一さんにもお世話になっていて色々連れ回されていたので夕四郎君と知り合いの筈だけれど、夜一さんが何故現世にいるかも決めてないし、主人公は百年会ってないとなると夕四郎君がいくつの時会ってたのか?となる。砕蜂隊長より背が低かったので百四十センチくらいでまだ十代前半ぽいし。扱い方が分からずにいます)


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