雪解け(本編弐) | ナノ
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 70 すべて熱は薄氷の下


それは、昼下がりのことだった。
彼女が午後から二番隊に鍛練をしに行く為に昼食は少なめにすると言っていて、松本が「そんなんじゃ足りないわよ」と食べさせようとするのを止めた。
そんな彼女が二番隊へ出掛けて、少し経った頃だった。
突然、大きな爆発音が響いた。
それは地面が少し揺れた程、空気が振動した程の威力だった。

「何事?!」

机で雑誌を読んでいた松本が立ち上がる。
何事かは分からないが、これだけは分かる。
彼女の霊圧だった。
爆発音が聞こえる前、一瞬彼女の霊圧が膨れ上がったのだ。

「隊長!何かあったんですよ、行ってきてください」

松本も感じたらしく、深刻な表情で言う。

「ああ、悪いが頼む」

窓から出ると、二番隊の方で煙が上がっているのが見えた。
瞬歩で屋根伝いに急ぐと、何事かと外に出てくる連中もいる。
砕蜂の元で鍛練をして、彼女の身に危険が及ぶようなことはないと思うが、あんな風に霊圧が膨れ上がったことはこれまでない。
恐らく、彼女の霊圧が爆発の原因だ。

「!」

二番隊が近付いてくると、彼女の斬魄刀、明鏡止水の霊圧を感じた。

「何だ…?」

二番隊の一部の上空に雨雲が集まり出し、集まった雨雲はその一帯に雨を降らせ始めた。
天相従臨――氷輪丸と同じく明鏡止水の基本能力の一つだが、彼女は無闇に使いたくはないと滅多に使ったことはなかった。
それを今使う理由は何だ?
しかも、あんな一部だけに。
四方三里に影響を与えるそれを、彼女が一部分に抑えているのだ。

二番隊の鍛練場に降り立ち、言葉を失う。
彼女が、斬魄刀を握り締めたまま座り込んでいる。
後ろ姿だった。
彼女の肩と背中が、赤黒く染まっている。
最初は死覇装が血に染まっているのかと思ったが、違う。
剥き出しの肌が赤黒く染まっているのだ。
ずきん、と心臓を握られたような痛みが走った。

辺り一面焦げ臭く、恐らく爆発により発火した為に彼女が斬魄刀を解放したのだろう。
屋外の鍛練場のお陰で被害は少ないようだが、倉庫があったと思われる場所には瓦礫が散乱している。
雨はまだ降り続いていた。

「日番谷か」

彼女の隣に立っていた、砕蜂が振り返る。
同時に、彼女も振り返った。

「丁度良い、冷やしてやれ」

何があったか聞きたいが、それよりも彼女が先だ。

「お騒がせして申し訳ありません」

と彼女は謝るが、近くで見て、患部の酷さに驚く。
氷輪丸を佩いて出たのは幸いだった。
氷を出し手拭いを巻いて患部に充てると、彼女が「うっ」と小さく呻いた。
悲鳴を上げる程痛みがある筈だ。
堪らず眉間に皺が寄る。

「何があった」
「瞬閧だ」

それは、砕蜂が会得している戦闘術。
高濃度に圧縮した鬼道を両肩と背に纏い、それを炸裂させることで鬼道を己の手足へと叩き込んで戦う白打の最高術だ。

「荻野ならば修得出来ると判断した。一瞬発現するには至ったが、霊圧を込めすぎたらしい。それでこの有様だ」

よく見れば、彼女は砕蜂と同じく刑戦装束を着ている。
下は普段の袴と変わりないが、上は肩と背中が剥き出しだった。

「四番隊に連れて行ってやれ。荻野、暫く稽古は休みだ」
「砕蜂隊長、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「良い。しっかり治せよ」

そう言って、砕蜂はその場を後にした。

「お手間をおかけして申し訳ありません」
「謝ることなんてねぇ。それより大丈夫なのか、立てるか?」
「…はい」

立ち上がろうとして、一瞬ふらつきそうになる彼女の肩を触らないよう、脇を支える。

「…ありがとうございます」

そう言うと、降っていた雨が止む。
斬魄刀を鞘に戻すと、痛みに小声で呻いた。

「周」

口から出た名前は震えていた。

「隊長……」

それに気付いた彼女が眉を下げる。
自分がどのような顔をしているのかは、彼女の表情を見れば大体予想が付く。

「四番隊へ行くぞ」
「はい…」

ふらふらしている彼女が危なかしく、肩と背中に触れないよう、担いで四番隊へ急いだ。

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