雪解け(本編弐) | ナノ
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 63 どうして世界は時々脆い


「そろそろ目的地点でしょうか」

丁度同じ木の枝を足場にした時、雛森副隊長が口を開く。

「はい、近いと思います。霊圧も徐々に濃く感じます」

次の枝に着地しながら返事をすると、彼女は頷く。
後ろを振り向くと、部下達も頷いた。
顔にかかる雨を袖で拭い、次の枝に飛ぶ。

数日前、東流魂街の山奥に虚の巣を発見したのは、五番隊の部隊だった。
討伐を開始したが数が多く、追加給金対象の虚も確認出来た為に一時撤退、後日討伐隊を編成して再び討伐に当たることになった。
五番隊の部隊によると、追加給金対象の虚は変わった能力を持っていた為に技局から捕獲の指示があり、雛森副隊長が部隊長、私は副部隊長を任されることになったのだ。
そして雛森副隊長と私が自隊から二部隊を選抜し、五、十番隊合同の討伐及び捕獲部隊を編成した。

「此処ですね」

其処は、山が削られて出来たと思われる洞窟だった。
中の霊圧を探ると、複数の虚の霊圧を感じる。

「間違いありません」

雛森副隊長の言葉に、前回も此処へ来た五番隊の隊士が頷いた。
此処に来る前に打ち合わせた策は、洞窟が崩れる危険がある為、まずは虚を洞窟の外に誘き出し、洞窟の外で討伐を開始するというものだった。
しかし、この地区に入ってから降り始めた雨は、更に強さを増していて、視界と足場が悪い。

「では皆さん、打ち合わせ通りに」
「はい!」

雛森副隊長の言葉に、全員が頷いた。

誘い出す為の撒き餌は、私が阿近から預かって来た。
ゆらゆら、ふわふわと霊圧を発する撒き餌は、虚の本能を擽るもので、阿近が作ったものだ。

「雛森副隊長、撒き餌を使う前に、少し宜しいでしょうか」
「え?…ええ、良いですけど」

少し驚いたようだったけれど、雛森副隊長は私の意見を尊重してくれた。
彼女にお礼を言って、素早く斬魄刀を抜き、霊圧を込め、始解する。

「三席?」

支倉五席だ。
普段最初から始解することはまずない為、不思議に思ったのかもしれない。
斬魄刀を逆手に持ち、振りかぶり、空に向かって投げる。
白銀のそれは、風を切って矢のように飛んで行き、薄黒い雨雲を切り裂いて、雲に含まれる水分を吸収しながら弧を描いて私の手に戻って来た。

「雨が…止んだ」

水分を失った雲は、空から消え、私達の上空一帯はすっかり晴れている。

「流水濫渇」

斬魄刀を握り直して空を切ると、ぐっしょりと濡れていた死覇装や髪の毛が一瞬にして乾燥する。

「す、すごい…!お見事です、三席!」

笹八席が声を上げる。
彼はいつも、何事にも大袈裟なくらい驚き、褒めてくれて、少し恥ずかしくなってしまう。

「ありがとうございます、周さん」

視界も足場も悪い中では戦い辛いだろうし、何より、雨の中では雛森副隊長の飛梅が本来の力を発揮出来ない。
天候を安易に変えることは、必ず何処かで歪みや異常が生じる為に出来ればしたくないけれど、戦闘となれば仕方がない。
昔の私は、前隊長の前で頑なに斬魄刀を解放しなかった。
けれど今思えば、もっと積極的に自身の能力を活かす方法を模索すれば良かったのではないか、と思う。

「撒き餌を撒きます」

私の霊圧に虚は気付いているだろうけれど、阿近の撒き餌を使った方が確実だ。
斬魄刀を鞘に収め、懐から撒き餌を取り出して少量を捲く。
洞窟の中で虚の霊圧が揺れるのを感じて、全員が斬魄刀を構えた。

――洞窟から出てきた虚の数は多かったのにも関わらず、然程時間をかけずに片付けることが出来たのは、追加給金対象の虚がいなかったからだ。

「副隊長、例の虚は洞窟の中です!間違いありません」

前回その虚を目撃した隊士が、洞窟の中の霊圧を探って言う。
前回此処へ来た部隊の隊士は二人のみで、他の三人は四番隊に入院していた。
その隊士達は目立った外傷はないものの、心に傷を負っていた。
つまり、精神的に弱ってしまい入院しているのだ。

「雛森副隊長、私が誘き出します」
「大丈夫ですか?」
「崩れる可能性もありますから、一人で行きます」
「気を付けてくださいね」

心配そうな表情をする雛森副隊長に頷いて、掌に小さな赤火砲を灯す。

「三席、気を付けてください」

五席の言葉に頷いて、洞窟に足を踏み入れる。
ひんやりとした空気が肌を撫で、遠くでぴちょん、と水音が響いた。

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