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わんこな彼氏


人は見かけによらぬもの――人の性格や能力は、外見だけでは分らないということだ。
これは、普段から良くも悪くも頻繁に使われる言葉だ。

例えば、どこかの貴族の娘だと思われる容姿や雰囲気をしているのに、実は流魂街出身だったとか。
女子力が高そうな容姿や雰囲気をしているのに、実は料理も裁縫もからっきしで、細かいことが大嫌いな面倒くさがりだったとか。
お淑やかで穏やかそうな容姿や雰囲気をしているのに、実は気がきつくて男勝りな性格だったとか。
戦闘、討伐任務には就かない虫も殺せないような文官専門の隊士だと思われる容姿や雰囲気をしているのに、実は二番隊で、執務よりも鍛錬や任務の方が好きな上位席官だったとか。
そう、全ては私のことである。

人は誰しも、見かけによらないものを持っているとは思うけれど、私にはそれが人より多いらしい。
〜だと思った、〜に見えた等々の言葉は、これまで生きてきて何度言われてきたか。
私がこの言葉を言われる殆どの、というか全ての要因は、容姿にある。
生まれてこの方この容姿の為に、自分では何とも思っていなかったけれど、周囲からすれば私の容姿や雰囲気は、私の思っているものとは違うようだ。
同期で友達の檜佐木君によれば、私の容姿や雰囲気はどこかの貴族の娘を思わせるもので、淑やかで慎ましく、穏やかに見えるのだとか。
男性の三歩後ろをついて歩いたり、争いや戦いが苦手で、か弱くて虫も殺せないような――守ってあげたくなるような女の子、男性の求める条件を多く満たす女の子――だそうだ。

これを初めて聞いた時はとても驚いて、他人事のように思った。
顔なんて中の中だと思っているし、品性なんてものの欠片もないし、流魂街ではぼろ布を纏って走り回っていたし、二番隊にいれば虚は勿論同胞を手にかけることだってある。
唯、私は結構な人見知りで、初対面の人とは中々普通に接することが出来ないし、打ち解けるまでに少し時間がかかる。
多分、それが余計に檜佐木君の言う"守ってあげたくなるような、男性の求める条件を多く満たす女の子"と周囲に思わせてしまっているのかもしれない。
勿論檜佐木君とも最初は普通に接することが出来なかったけれど、霊術院で同じクラス、加えて席が隣同士だったこともあり、比較的早く打ち解けることが出来た。
私の素を知った檜佐木君も最初は驚いていたものの、彼は変わり者なんだか優しいのか(多分両方だと思う)、幻滅したり、付き合いを止めたりしなかった。
檜佐木君や女の子は、見かけによらないところを受け入れてくれて、寧ろ女の子にはそれがとてもうけた。
二番隊隊長である砕蜂隊長も、私を「面白い奴だ」と仰ってくれたし、彼女は人を見かけで判断するような人ではなかった。

私の見かけによらないところを受け入れられないのは、男性だ。
今まで告白されたこともあった、好きな人が出来たこともあった、交際したこともあった。
けれど私の素を知ると、大抵の男性は幻滅して、離れていく。
何故なら第一印象の私を、見かけの私を好きだったからだ。
中身も見かけ通りだろうと、きっとそう思っていたのに、蓋を開けたら真逆と言って良いくらいの女で。
好きな人に、まるで絵に描いたように幻滅されて、離れていく。
〜だと思った、〜に見えたと言って、中には"騙された"なんて言う人もいた。
私はそれが怖くなって、所謂男性不信になった。
今では仕事とお酒と友達ばかり、すっかり色恋沙汰とは無縁になった。
それで良いと思ってたし、またあんな思いをするくらいなら、私のことを受け入れてくれる人だけと仲良くしていれば、それで満足だった。
他の誰かに受け入れて欲しいとは思わなかったし、傷付くくらいなら、何も求めようとは思わなかった。

人は誰しも見かけによらないところを持っていて、周囲がそう思うのは仕方のないことで、当たり前のことだと思う。
それが良い意味の場合もあるし、良い方向に転ぶこともある。
けれど、私は見かけによらないところが人より多くて、人より多くその言葉を言われてきて、疲れてしまった。
その言葉を言われる度、私は今までの自分の生き方を、自分の性格を、考え方を、何もかもを否定されている気がして、私の全てを否定されている気がして。
だから、私は諦めたのだ。



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