十番隊の三席くん | ナノ
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末席官と上位席官の詰所をはしごし、所要を済ませて執務室に戻ろうとすれば、副隊長の霊圧が執務室にないことに気が付く。

「副官室…?」

十番隊の副官室は現在使われておらず、資料室のような役割を果たしている。
隊士達が定期的に掃除をし、副隊長も資料を取りに出入りすることはある。

扉を開けて中を覗けば、彼女が背伸びをして壁に何か張り付けていた。
その後ろ姿は何だか楽しそうで、それは霊圧にも現れている。
これは見なかったことにするべきか、一応聞くべきか…。

「……何やってんすか」
「あ、おかえり、冬獅郎」

何かを張り終えて振り返る彼女は、満足気な表情をしている。

「何ですか、これ」

部屋中が、折り紙で出来た何かで飾り付けられている。
いや、これは飾り付けたと言うべきなのか?

「何ってくすりますだよ?あ、くり…すます?だっけ?あれ?合ってる?」

覚えたてなんだか記憶力がないんだか。
一人でぶつぶつ言った後、「何だっけ?」ともう一度俺に問う。
溜息を吐いて「クリスマスでしょうが」と呆れたように言えば、ぱっと顔を明るくする。

「そう、くりすます!今日はくりすますぱぁてぃだよ!」
「クリスマスは二十五日でしょう」
「うん、ちょっと早いけど」

この人のことだから、日付を間違えたのだと思えば、どうやら違うらしい。

「いや、意味分かんねぇっす」
「勤務後、皆此処に来るよ」
「は?」
「だから、今日はくりすますぱぁてぃをするから皆でわいわいするの」
「いやそうじゃなくて、何すかそれ、聞いてないっす」
「だって言ってないもん」

駄目だ、この人に言葉が通じない。
今に始まったことじゃないが、この人はこういう人だ。
仕事ではしっかりしているのに、それ以外はこんなんで、松本と同じく平常時と非常時では人が変わる。

「もしかしてこの飾り付け気に入らない?君が席を外してる間に頑張ったんだけどなぁ」

私は現世の流行ごとには疎いから、乱菊や現世任務が多いルキアちゃんに教えてもらって折り紙や画用紙で色々作って貼り付けてみたけど、やっぱりおかしいかな?
最後は適当に折っちゃったのがまずかったかな?
くりすますつりぃっていう木に飾りを付けるのが定番だってルキアちゃんに聞いたから、浮竹隊長から盆栽を借りてきて折り紙の飾りを引っ掛けてみたんだけどおかしい?
結構力作なんだけどなぁ、ほら、冬獅郎の好きな甘納豆もぶら下げたよ?
もしかしてもっと大きな木が良かったとか?

と、俺が呆れている間にも一人でぶつぶつ言っている。
クリスマスツリーが全く別物であることは黙っておく。
もみの木を探しに行くとか言い出しそうで面倒だ。
大体食い物をツリーにぶら下げるって意味が分からない。
誰に教わったんだよ。

「……俺が言いたいのはそういうことじゃねぇ」
「こら、敬語がなくなってるよ」
「執務はどうするんですか」

こんな人だが、十番隊の副隊長で、隊長不在の為に隊長権限代行でもある。
何故か彼女は勝気な笑みを浮かべて、腰に手を当てる。

「ふっふっふ…今日の為に頑張って片付けたから、今日は定時なのだよ日番谷君!」
「…………」

隠しもせずに大きく溜息を吐けば、

「え、何、待って、その顔何?」

と慌て始める彼女。

「んなことの為に最近残業してたのかよ……」

最近休憩をとることは愚か、彼女の原動力と言っても過言ではない菓子も食べずに執務に没頭していたと思えば、まさかそんな理由だったとは。
何を考えてるんだこの人は。

「そんなことじゃないよ、これも大事なことだよ」
「……酒が飲みたいだけでしょう」
「残念、私は甘党だからお酒は飲めないの」

これには驚いた。
これまで松本や他の連中と飲みに行った云々の話しを何度も耳にしたことがあった為、当然のように酒好きなものだと思っていた。

「……だったら何で…、」
「言ったでしょ、大事なことだよ。こういう息抜きも、他隊や自隊の隊士との交流も。ほら、最近十番隊は忙しかったでしょう。皆頑張ってくれたし、労わないと」

彼女の言う通り、ここ最近の十番隊は慌ただしかった。
席官が殉職したことや、負傷し暫く四番隊に入院しなければならない席官が数名出たこと等が重なり、人手不足に陥っていて、この一週間で何とか落ち着いてきたところである。
席官達は連日残業に追われていたのも事実。
多忙の為にこの人が自室に帰らず執務室に寝泊まりしていたのも、また事実だ。

「言っとくけど、冬獅郎も参加するんだよ」
「は?」
「だって君は三席だもの、当然でしょう?でもね、残念ながら桃ちゃんは現世任務で来れないんだって」

何故ここで雛森が出てくるのかは分らないが、彼女は随分雛森を気に入っている。
強制参加、拒否することは出来ないらしい。

「執務は明日で良いし、私も手伝うから大丈夫。だって今日は、」
「司、ただいまー!」

彼女が言いかけた時、ばたん!と大きな音を立てて扉が開けられる。
勿論松本だ。


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