涙雨の逢瀬 | ナノ
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「貴女は正直なのですね」

そう言って、彼女は眉を下げて微笑む。

「申し訳ありません…」

彼女を傷付けてしまっただろうか。
心配になって、自分の言葉に少し後悔する。

「いいえ、謝る必要等ありません。会ったばかりの私を見極めきれないのは当然のことです」

そう言って、首を横に振る。

「ルキア様は、白哉様を信じていらっしゃるのですね」

「それがとても嬉しい」と、彼女は笑う。

その言葉に、少し驚いて、今度は私が嬉しくなる。
彼女は、兄様を大切に思っているのだ。
多分、私が想像するよりずっと深く。

「紬様のことを、教えていただけませんか」

彼女は驚いて、少しの沈黙の後、少しずつ話してくれた。

出自のこと、異母姉がいたこと、異母弟がいること、それから、幼い頃から兄様と知り合いだったこと。
以前から疑問に感じていたことに、理由があったことを知った。
兄様が時折、彼女を蓮華と呼ぶこと、彼女が時折、兄様を紫蘭と呼ぶこと。
二人がいつ何処で知り合ったのだろうと、二人のそれは短い付き合いの間柄には見えなくて、不思議に思っていた。
兄様は、先代の当主が亡くなった時、緋真様が亡くなった時、彼女に助けられたのだ。

「貴女にお話ししたこと、内緒にして下さいね」

「きっと恥ずかしがるでしょうから」と、彼女は微笑む。
彼女の兄様のことを話すその表情が、眼差しが、とても優しく穏やかで、それが嬉しく、少し羨ましく思った。

そして、彼女と過ごす時間が経つにつれて、じわじわと滲むような胸の中の何か。
もしかしたら、亡くなった姉、緋真様を、彼女に重ねてしまったのかもしれない。
緋真様が生きていて、同じ時を過ごせたのだとしたら、こうやって夜の縁側で話しをしたりしたのだろうかと、想像した。
記憶にない姉、血の繋がった唯一の人である姉、赤子だった私を捨てた姉、自責の念から私を探し続けた姉。
色々な気持ちが入り混じって、それが何かは分からない。
唯、じくじくと胸が痛んで、喉に何か詰まったような感覚になって、その痛みと苦しさに膝の上の拳を握る。
すると、隣から彼女の白い手が伸びて、私の手に重なった。
驚いて顔を上げれば、彼女が微笑んでいて。
その手の温もりに、微笑みの優しさに、眼差しの温かさに、思わず涙腺が緩んだ。

「……っ、」

彼女は何も言わずに私の手を握り、もう片方の手で、私の頭をそっと撫でた。
彼女の手が、小さく震えていて。
彼女の瞳を見上げれば、黒い瞳は潤んでいた。
私が緋真様のことを思ったように、彼女も、亡くなった姉を思ったのかもしれない。
彼女は細く長い指で、私の頬を優しく拭う。
彼女の隣は心地良く、その香りは、霊圧は、私を優しく包んでくれた。
兄様もこんな風に、彼女の隣で泣いたのかもしれない。

「白哉様が大切に思う貴女を、私も大切に思いたい」

私も、同じことを思った。
頷いて、彼女の手を握り返す。

きっと緋真様はこれからも、兄様を見守り、兄様の背中を押してくれる。
紬様は、兄様の手を引き、兄様を導いて下さるだろう。
ああ、この方がいれば、兄様はきっと大丈夫だ。
私が言えることではないし、兄様にとってはお節介でしかないだろうけれど。
兄様がいて、紬様がいて、胸の中には、緋真様がいる。
それが、とても嬉しい。

「……姉様」

緊張して、そっと、小さく、そう呼んでみる。
彼女は大きな瞳を更に見開いて、それから優しく細めて、笑う。

「はい」

花が咲いたような笑顔。
今まで見た何より、美しいと思った。

兄様の大切な人。
この日、私にとっても大切な人になった。


やがて僕らは特別になる




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