泉の為に何かしたい。

そう思うのは普通の事だよね―――――?










夕日が完全に顔を隠し、闇が街を包み始めると、皆はそれぞれ帰って行った。
結局病室を飛び出していった田島と花井は帰ってこないままで、直接帰ってしまったのかもしれない。


病室には俺と泉と水谷の3人だけだ。


「…栄口、帰らないの?」

「水谷は先に帰ってていいよ。俺、泉と話したいことがあるから」

「栄口が残るなら俺も残るよ」




―――正直言って、水谷には先に帰ってて欲しかった。
優しい水谷は俺の事を心配して残っててくれてるみたいで悪いけど、泉と2人きりで話がしたかったから。


「…そっか。ありがと、水谷」

「んーん」


一応言ったお礼にも、水谷は笑顔で答えてくれる。
俺には勿体ないほどの優しい恋人。



「…栄口とみず…わり、なんだっけ?」

「水谷だよ」

「あ、そうだった。水谷は帰らなくていいのかよ」


親が心配するんじゃね、と泉は窓の外に視線を向けた。

そんな些細な動作でさえ、泉が壊れてしまうんじゃないかって心配になる。
今日のケンカはヒビが入っている泉に更にダメージを与えてしまったんだと思う。

田島の言い分も分かるけど、泉の気持ちも分かるから。

俺がこれからいう事は、泉をもっと傷つけてしまうかもしれない。
ううん、きっと傷つける。

けど言わないときっと泉は俺から、俺たちから離れて行ってしまうから。




「水谷、ちょっと廊下に出ててくれない?」

「え、でも…」

「お願い」

「…分かった」



目を伏せて大人しく廊下を出た水谷を確認した後、改めて泉の姿を見てみる。
こっちに向いている垂れ気味の瞳の下には真っ黒な隈が出来ていて、眠れてないんだと分かった。

「泉。ハッキリ言うけど驚かないで聞いてね」




「何を…




「正直言って今泉がやってることは俺たちにとって余計なことだよ」





………っ?!」




一応前置きはしたけど、泉は目を見開いて固まっている。

それはそうだと思う。

皆のためにやっていることが余計なことって言われちゃっったから。




「泉がそうやって本音を隠して野球ヤメルとか言ったって、みんな喜ばない。泉にも分かってると思うけど逆だよ。みんな怒ってる」


「泉が野球を続けるって信じてたから」



泉は固まった状態から震えだし、顔を俯かせて下唇を噛んだ。

「栄口も……」



「え…」



「栄口も分かってくれねーのかよ」



「なにが…?」



「俺がなんで野球やめるとか考えねーんだよ!野球は大好きだよ。やめたくだってねーよ。だけどっ!お前らが…お前らのために俺は野球やめんだよ!!俺はお前らの足手まといになりたくない。お前らは俺に構わずに甲子園に行けばいいんだよっ!」




やっぱり、俺たちの為…。
でもそんな泉の考え方に俺は腹が立つんだけど。
腹が立って、立って、仕方ないんだけど――――――――…?





「―、が」


「は?」





「泉がいなきゃ意味ない!!」


















なんでかな、なみだがこぼれそうだ

離れないで一緒にいて欲しいんだよ


ただ、それだけ















ノエシス/ノエマ










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