やりたいに決まってんじゃねーか。
バカ田島。
なんで分かってくれねーんだよ。
俺はもうお前が思っているような泉孝介じゃない。
なんでそれが分からねーんだ。
やっぱバカ。
そうだ、お前は馬鹿な奴だよ田島。
世話が焼ける、子供みてーな奴だったな、お前はさ…
「あ…れ」
なんで田島のことが分かったんだ?
だって、俺はもう…覚えてないはずなんじゃ…
田島がどんな奴だったかなんて。
「ホントに野球やめたいのかよ!泉!!野球が嫌いになっちゃったのか?!」
「黙れ!」
何かが分かりそうだったのに田島の声で分からなくなりそうだ。
自分の事にいっぱいいっぱいだった俺は、田島がどんな表情をしているかなんて見られなかった。
だから、田島が自分のすぐ側に来ているなんて気付くはずもなく。
ガッ!!!!!!!!
「っ!!!」
「もー、いー」
「テメー、田島!何すんだ!!」
殴られた左頬を押さえながら田島を睨みつけると、田島は俺を一瞥して病室を出ていった。
バン!と大きな音付きで。
「おい、田島!」
強く締めすぎたせいで跳ね返った扉を少し丁寧に閉め直して花井も病室を出ていく。
「……………」
「…………なんなんだよアイツは…」
左頬は完全に腫れていて口の中は血の味がした。
少しでも痛みが和らげばと擦っていると、目の前が陰ったから顔を上げてみれば浜田が立っていた。
「泉、田島傷ついてるぞ」
「…んなこと分かってるよ」
「追いかけなくていいのかよ。このままじゃ、野球だけじゃなくて仲間も失うことになる」
憂鬱だった。
なんで、誰も分かってくれない。
言わなきゃ伝わらないって分かってる。
でも、それでも分かって欲しいのに。仲間だから。
「…俺」
「うん」
浜田は凄く落ち着いてて、やっぱ年上なんだなって思う。
ゆったりと包み込んでくれる空気が心地いい。
そういうところに魅かれたのかもしれない。
ぜってー言わねーけど。
「田島のこと、少し思い出して。それで混乱してたんだ」
「そうだったのか」
「別に野球が嫌いになったわけじゃねーよ…」
そっかそっか、と浜田は笑った。
そして頭をクシャクシャと撫でてくる。
いつもなら払いのけるけど、今だけは大人しくされるがままになってみる。
「でも」
急に真剣な顔になって、浜田が言った。
「それは田島に言って来い」
「……………」
無理だ、と俺は思った。
田島の事だ、それを言えばそれはそこで納得するだろうけどまたしつこく理由を聞いてくるに決まってる。
バカ単純でまっすぐ。田島のいい所であり欠点だ。そして、今の俺にとって田島の純粋さはとても酷なものであって。
「明日言うよ……」
結局何も変わるわけないのに先延ばしにするだけしか出来ないんだ。
よわっちい俺。
「ん、分かった」
それでも笑顔を向けてくれる浜田に、ちくりと胸が痛んだ。
あらわれたのはふたつの太陽でした