何かを得るためには代償が必要だというけれど。
代償に代償を重ねた俺は何かを得ることが出来るのだろうか――――――――…
一通りの自己紹介を終え、ホッと息を吐いたのもつかの間。
監督が俺の目をじっと覗き込んできた。
「あ、の…」
「泉くん」
何か言おうとした俺の声を遮って、監督が鋭い声を放ち、俺はゴクリと喉をならした。
俺の緊張が伝わっているのかは分からないけど、監督の少し吊り気味の目がまるでロックオンをしたように俺をとらえて離さない。
思わずスーツを固く握りしめた俺の手を見て笑った監督は口を開いた。
「このまま、野球、続けたい?」
野球。
このたった一言。
それが俺の胸にずっしりと圧し掛かる。
野球を続けたいか。
それは、そうだ。皆の記憶が消えたって、”皆と野球をやって楽しかった”という記憶は消えてない。
けど。
そんな我が儘で皆の夏が、夢が壊されたりしたら。
そんなの、俺が許せない。
記憶をなくした俺は皆の足を引っ張ることしか出来ないんだから――――――――…
あー、改めて思うと結構キツイものがあるな。
目から零れ落ちそうなモノは無視して、フッと笑みを浮かべて。
それでも口元が強張って上手く笑えなかったけど、カラカラになった喉もムシ。
これは、俺なりの最後のプライドでありけじめなんだ。
だから
皆見ないふりをしてくれよ
「…っ、お、れ…。辞めます―――――――」
Naked emotion