半年と一日 ※89現パロ おデート |
お付き合いが始まってから今日で半年と一日…ジタンは悩んでいた。 いわゆる恋人同士とやらになったのだが、スコールからそれらしいアプローチが全く無い。 登下校、学校内、休日の遊び…友人も一緒だが、もちろん二人っきりの時だってある。 なのに、無い。 それはとても見事なほどに。 手も繋がなければ、肩も抱かれない…ましてやそれ以上の事なんて皆無だ。 もしかしたら、スコールはあまりベタベタするのは好きじゃないのかもしれない。 うん、そうだ…きっとそうに違いない。 自分に言い聞かせながら悶々とする日々…その結果、半年経過してしまったのだけれど。 そんな事を考えていたジタンの頭上から、スコールが声をかける。 「明日、映画に行かないか?」 どちらかというと、自分から遊びの提案をする事の多かったジタンは、二つ返事でOKした。 *** 「お、ここだ」 「混んでるな」 大作なのか窓口で引換えた券はあまり良い席とは言えなかったが、二人は気にせず席に着く。 「やっぱりコレ大き過ぎたかな…」 「俺は協力出来ないぞ」 「美味しいんだぜ、塩キャラメル味」 映画と言えばポップコーン…勢い良く特大サイズを買ってしまい、バケツの様な容器を抱えジタンは苦笑いをする。 「終わるまでには頑張るよ」 暫くして映画が始まった。 ヒーローとヒロインが織り成す冒険活劇、大作らしく娯楽性に富んだ内容だ。 (きっと俺の好きそうなヤツ選んでくれたんだろうな…) ポップコーンを口に運びながらチラリと隣のスコールを見る。 スクリーンからの明かりに浮かび上がる表情はいつも通り。 (スコールは楽しいのかな) いつも自分だけが賑やかで、騒がしい。 元々タイプが違い過ぎて、正直上手くいくのかジタンは常に不安だった。 あまり口にも表情にも行動にも出さないスコールの性格を解っていたつもりなのに。 (映画みたいに上手くはいかない、か) ふぅ、と小さくため息を吐き、再びポップコーンに手を伸ばすと指先に何かが触れた。 それは力強くジタンの手を握り、離さない。 驚いたが、解りきった犯人であるスコールを見る。 やや緊張した面持ちでスクリーンを見ながら硬直しており、その姿にジタンは思わず吹き出しそうになった。 笑うな、とばかりに手の力が強くなる。 じんわりと感じる温もりが、不安な気持ちを溶かしていく。 (ただ手を繋いだだけなのに) そう、だたそれだけなのに。 ヒロインを口説くような愛のセリフを囁くよりもずっといい。 (困ったな、映画どころじゃないや) *** エンドロールも終わり、場内が明るくなると皆、次々と席を立つ。 「なぁ、スコール」 「…何だ?」 「俺としてはもう少しこのままでいたいけど…」 「けど?」 「俺達の手、ポップコーンの塩キャラメル味まみれだ」 スコールは握った手を自分の唇に寄せ、キスをする。 「意外と美味いな」 「…!!?」 (あああ、それは反則だって!) 〜fin〜 - - - - - - - - - - 2012 11.20 UP |